カレッジ長挨拶
東京カレッジは、東京大学内外で活躍する研究者や知識人と市民の皆さんが一緒に未来社会の様々な側面について考えていく場として、2019年2月に設立されました。それから5年間、羽田正初代カレッジ長のもと、東京カレッジの活動はコロナ危機の最中でも大きく減速することなく拡大してきました。第一線で活躍する研究者や知識人、そして将来性豊かな若手研究者を世界中から招き、東京大学の研究者や学生と交流しつつ、新たな知の創造を模索してもらうと同時に、様々な課題に関する最新の知見を、ウェビナーなどを通じて世界中に発信してきました。
東京大学は、2021年からUTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」という基本方針を掲げて、「知をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という3つの視点(Perspective)から重要目標を定めて、世界の公共性に奉仕する総合大学としてさらなる進化を目指しています。東京カレッジは、3つの視点のすべてにおいて中心的な役割を果たす機関だと自負しています。広く社会と関わる世界的な「場」で、分野を超えた「知」の構築を目指すと同時に、若手研究者を中心に「人」を育んでいきます。
この4月から新しいカレッジ長として、東京カレッジのさらなる発展に尽力したいと思いますので、みなさんの一層のご支援をお願いします。
2024年4月
東京大学総長メッセージ
Creating new knowledge and disseminating it to the world
20世紀半ばに誕生した半導体エレクトロニクス技術は、コンピュータ、インターネットに代表される新しい情報通信の機器や環境を生みだし、社会経済を支える不可欠の基盤となりました。その進歩と波及は、今いっそう加速しています。インターネットによって繋がれたサイバー空間には、国境を越えて膨大なデータが時々刻々と蓄積され、増殖しています。そして、近年の人工知能技術の革新は、その巨大なデータの活用の道を開き、我々が暮らす物理空間とサイバー空間の高度な融合という、かつて人類が経験したことのない新しい状況をもたらしています。これは、デジタル革命とも呼ばれ、経済的な価値を担う媒体が“もの”から“データ”へと不連続に転換するなかで、世界は急速にかつ大きくその姿を変えつつあります。こうした社会の転換が地球と人類をどこに向かわせるのか、その未来図を予測することは容易ではありません。
私は、この転換には、さまざまな格差や、気候変動、温暖化、排外主義、紛争・対立等、我々が今抱えている地球規模の課題を乗り越え、より良い未来に導く大きな潜在力があると感じています。全ての人々が多様な個性を活力として、活き活きと活動し、その中で、地球と人類共に調和を保って持続的に発展することができるのです。しかし、この転換が、データの独占のような新たな課題を生み出すとともに、むしろ我々が直面している課題を決定的に深刻化させ、世界を不安定にしてしまうという、逆のシナリオも存在します。
より良い未来社会へと転換させるためには、どうすればよいのか。個々の人々が、変化を恐れるのではなく、良いシナリオを選び取るのだという強い意思と希望を持つことが必要です。そしてそれを多くの人々と共有し、共に知恵を出しあって行動し、大きな力を生みだしていかねばなりません。東京大学は、その活動の舞台のひとつとなることで、より良い社会に向けた変革を駆動したいのです。東京大学は創立以来142年にわたり、日本の学術の伝統を引き継ぐと共に新たな知を生みだし続けてきました。この機能をいっそう高めるために、このたび新たに「東京カレッジ」を創設することにいたしました。
「東京カレッジ」では、世界中から招聘したさまざまな分野の卓越した研究者と本学の多様な研究者の接触を通じて新たな知を創出し、それを世界に発信していきたいと思います。文系理系といった旧来の学問の枠を越え、新たな学理の原点と潮流が生みだされることを期待しています。また、学生には、最先端の知に日常的に触れる環境を提供し、世界を舞台に活躍するための力を鍛えてもらいたいと考えています。
さらに重要な役割は、こうした最先端の知とそれを生みだす現場の大切さを広く市民に伝えることです。学問研究が如何に多様な時間空間のスケールで営まれているのか、その奥深さ、広がり、そしてその面白さを肌で実感していただきたいのです。そうすることによって、大学や学問をもっと身近に感じてもらいたいと考えています。
東京カレッジを通じて、本学の未来社会協創の理念に共感し、共に活動してくださる人々の輪を一層広げていきたいと考えています。今後の活動にご期待ください。
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