東京カレッジ講演会「腎臓病の現況と未来」講師:マーク・オークサ - 東京カレッジ

東京カレッジ講演会「腎臓病の現況と未来」講師:マーク・オークサ

日時:
2019.09.19 @ 17:00 – 18:30
2019-09-19T17:00:00+09:00
2019-09-19T18:30:00+09:00

東京カレッジ講演会「腎臓病の現況と未来」が開催されました

2019年9月19日、マーク・オークサ教授(バージニア大学)による講演会「腎臓病の現況と未来」が開催されました。バージニア大学の腎臓内科主任教授で急性腎障害と免疫に関する研究の第一人者であるオークサ教授は、グローバルな問題である腎臓病への負担、そして腎不全、医療政策、腎臓病の分野におけるランドマーク的な研究を紹介し、将来に向けた腎臓の研究とイノベーションについて論じました。後半には、稲城玲子特任教授(東京大学)と土井研人准教授(東京大学)と鼎談を行いました。

腎臓の役割と増加する腎臓病

司会の大竹暁教授(副カレッジ長)による趣旨説明に続き、オークサ教授は、腎臓がホルモンをつくって骨の健康を保ち、血球、排泄、血圧などに影響する最も重要な臓器の一つであること、しかし腎臓病は気づきにくく、沈黙の疾患であることを述べました。現在、世界中で腎臓病を患っている人々の数は8億5000万人おり(糖尿病患者数の2倍、HIV患者数の20倍)、日本でも慢性腎臓病(CKD)の患者数は1300万人、30万人が透析あるいは移植を受けています。地域差、性差はあるものの、ESRDと呼ばれる末期の腎臓病は世界的な問題となっています。

グローバルな課題としての腎臓病

次に、オークサ教授は腎不全の治療にかかる費用をグローバルな課題と位置づけました。腎臓病治療にかかる費用は高く、透析に必要な機械の数も限られているため、治療の機会が均等に行き渡らないという問題があります。これについてオークサ教授は、アメリカの公衆衛生政策を例に挙げ説明しました。1972年にリチャード・ニクソン大統領は、政府が資金を供出するメディケアの適用範囲をアメリカの腎不全患者に広げる法律にサインし、保険を払っている65歳以上の人、もしくは透析患者には補助金が出されることになりました。近年、新しい薬剤である免疫抑制剤のアザチオプリンを使うことが可能になり、移植の可能性の幅も広がりつつある一方で、財政的負担は引き続き問題になっています。オークサ教授は、今後も腎不全治療のためのコストを政府が負担し、持続性のある政策を実施していく必要があると言及しました。

イノベーションと未来

オークサ教授は、アフリカ系アメリカ人で行ったスタディから遺伝的な知見が得られたこと、2019年にNew England Journal of Medicineに発表された研究でカナグリフロジンが2型糖尿病と腎臓病の転帰にもたらす関係が示されたこと等を最近のランドマークスタディとして紹介しました。将来的には、3DやAI(人工知能)の技術によって、腎臓病の予測が可能になるかもしれないと言います。しかし、オークサ教授は、新しい発見やイノベーションを実際の治療に生かすためには、「死の谷」と呼ばれる大きなギャップを乗り越えなければならないと指摘し、製品開発に向けて足りない資金を補うために官民のパートナーシップが重要だと述べました。

 

鼎談

講演会に続いて、オークサ教授、分子生物学と基礎腎臓学が専門の稲城特任教授、救急科学が専門の土井准教授が鼎談を行い、研究現場と医療現場における各々の視点から腎臓病治療とその未来について考察しました。人工臓器の将来や腎臓病の予防について意見が交わされ、フロアからは、臓器アトラスをつくるために将来的に何が必要かという質問が挙がりました。これに対してオークサ教授は「腎臓の単一細胞を理解することによって、特定の疾患に対して治療できる薬剤がわかるだろう」と回答しました。また、オークサ教授は「腎臓病の専門医は腎臓のみならず、心臓、肺、消化器について理解することが必要であり、おそらく腎臓病の専門家は最高の内科医である」と述べ、会場に集まった若手の医師達に励ましの言葉を送りました。

 

終了しました
開催日時 2019年9月19日(木)17:00-18:30(16:30開場)
会場

東京大学・鉄門記念講堂 (本郷キャンパス 医学部教育研究棟14階)

申込方法 事前申込制。250名(先着順、参加無料)
言語 日本語、英語(同時通訳有)
主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

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日本は、同レベルの諸外国と実質的に同じように男女差別を禁止しているにもかかわらず、ジェンダーギャップ指数においては146カ国中118位で、ドイツより111位、アメリカより103位も低い。なぜなのか? 日本の文化は、女性が家でおとなしくしていることを求めているのだろうか? もしそうなら、なぜ女性の大学卒業率は男性より高いのか? なぜ女性の労働参加率は高いのか? 女性たちが雇用差別訴訟を起こし、勝訴するのはなぜか? 本講演ではこれらを考察し、その理由について暫定的な--極めて暫定的な--見解を述べる。

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イベント予定講演会/Lecture

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少なくとも19世紀以降、世界文学は現実のものとなった。テキストは大陸や文化を越えて旅をし、あらゆる言語から翻訳され、世界中の大学で教えられ、新たなグローバルな規範を形成している。これほど自由に、どこにいても好きな作品を読むことができる時代はかつてなかった。あるいは、そう思えるかもしれない。しかし、それは本当の自由なのでしょうか?単なる心地よい幻想にすぎないのでしょうか?この一見無限に広がる文学の交流には、どのような境界があるのか。本講演は、その限界を探り、文学への新しいアプローチを提案することを目的とする。それは、まったく新しいテキストの読み方、あるいは、かつて存在し忘れ去られた方法かもしれません。
ようこそ、「世界の図書館」へ!

旧約聖書は王国滅亡をどう語ったか:危機と自然をめぐる3つの言説(講演者:Thomas RÖMER教授)

イベント予定講演会/Lecture

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紀元前587年のエルサレムの陥落・ユダ王国の滅亡に関連して、旧約聖書(ヘブライ語聖書)には自然や環境に対する異なる言説が見られます。 本講演ではドイツの社会学者アルミン・シュタイルの分析にならい、国家的危機を前にした人々の姿勢を 1) 預言者(危機の後に人間、自然、動物が調和する楽園のような未来が訪れると考える)、2) 官吏(自然災害を神の裁きと捉え、環境に関心を払わない)、3) 祭司(現在の儀式につながる神話的な過去を構築し、人間と自然の調和をめざす)に類型化して読み解きます。生きとし生けるすべてのものとの共存について、聖書は私たちに多くのことを教えてくれるでしょう。

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公開済みイベント

ネイチャー・ベースド・マーケットの設計と拡大(Beatrice WEDER DI MAURO教授)

イベント予定講演会/Lecture

2025年4月23日(水)15:00-16:30

カーボンマーケットやネイチャー・ベースド・マーケットは、信頼性の低さ、高コスト、規模の限界に悩まされており、必要とされる水準には程遠い状況である。本講演では、Beatrice Weder di Mauro教授が、Estelle Cantillon教授とEric F. Lambin教授と共同開発した新しい市場デザインを紹介する。そこでは、自治体など行政区が大規模なプロジェクトを提供し、投資家は土地の所有権を付与することなく、炭素および生物多様性の『配当』を生み出す株式を購入する仕組みになっている。これにより、市場価格は需要を明らかにし、流動性を高める。これらはクレジットベースのシステムと比較して、このアプローチはコストを削減し、信頼性を高め、長期的なコミットメントをサポートする。本講演は、今日の市場を阻む核心的な問題に取り組み、真の環境影響力をもって規模を拡大する信頼できる道筋を提供する。

「来館者中心」の博物館が意味するもの(講演者:Leslie BEDFORD教授)

イベント予定講演会/Lecture

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本講演では、長年にわたり博物館の専門家および博物館学の教育者として活動してきたレスリー・ベッドフォード教授が、ヴェイルの言葉の意味を考察し、それがどのように博物館において実践されてきたかについて検討する。ベッドフォード教授が日本で訪れた博物館の事例に加えて、来館者中心の実践に関して、日本の博物館専門家や研究者との一連のオンライン対話を通じて得られた議論の成果を紹介する。そして「来館者中心」という考え方が、今日において、そしてこれからの時代に何を意味しうるのか問う。

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2025年4月16日(水)10:00-11:30

1347年からヨーロッパに広がった第二次ペスト大流行は「黒死病」と呼ばれ、史上最大の人口災害として知られている。今日では、葬送考古学、人類学、微生物学、環境科学を組み合わせた学際的研究により、ペスト研究のアプローチは大きく変容した。DNA分析や気候研究の進展は新たな理解をもたらしたが、長期的で世界規模の出来事をどのようにしてグローバル・ヒストリーとして叙述すべきか、という課題は残されている。ペストの流行経路は世界のつながりを示すが、その正確な地理は依然として不明瞭である。それはまるで群島のように不連続でありながらもグローバルな広がりを持つ。

役に立たない機械の目的とは何か(講演者:Dominique LESTEL教授)

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言語における協働──記録から再興へ(講演者:Mark TURIN教授)

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"本講演では、これまでMark TURIN教授が関わってきた、歴史的に周縁化されてきた先住民族コミュニティとの2つの協働プロジェクトについて議論する。対象となるのは、ヒマラヤ地域および北米先住民社会であり、彼らはそれぞれの言語を保存し、再興するために取り組んでいる。本講演では、「収集(Collect)」「保護(Protect)」「つながり(Connect)」という3つの言葉について探求する。
"

ブリュッセル効果への対応:日本企業はEU-AI法にどう備えるべきか3

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