東京カレッジ講演会 日本の「ダーク・ツーリズム」:グローバル、国、市民の視点から 講師:アンドルー・ゴードン - 東京カレッジ

東京カレッジ講演会 日本の「ダーク・ツーリズム」:グローバル、国、市民の視点から 講師:アンドルー・ゴードン

日時:
2019.06.21 @ 15:00 – 16:45
2019-06-21T15:00:00+09:00
2019-06-21T16:45:00+09:00

アンドルー・ゴードン教授による講演「日本の『ダーク・ツーリズム』:グローバル、国、市民の視点から」が開催されました

2019年6月21日、アンドルー・ゴードン教授(ハーバード大学)による講演会「日本の『ダーク・ツーリズム』:グローバル、国、市民の視点から」が開催されました。日本研究のメッカと呼ばれるハーバード大学ライシャワー日本研究所において所長を務めた経験も持つゴードン教授は、今後数年にわたって研究することを予定している「ダーク・ツーリズム」というテーマから、歴史の複雑さを理解するために複数の視点を用いることの重要性について日本語で講演しました。後半には吉見俊哉教授(東京大学)と朴喆熙(パク・チョルヒ)教授(ソウル国立大学)と鼎談を行いました。

司会の羽田正教授(カレッジ長)による講演会の趣旨説明に続いて、ゴードン教授は、まず「ダーク・ツーリズム」の定義を説明しました。アウシュヴィッツ、広島原爆ドーム、奴隷要塞、監獄など、災害、苦難、死など悲惨な歴史の舞台であった場所を観光の対象にするダーク・ツーリズムという言葉は90年代に概念として論文に使われ始めました。一方で、その行動パターンは、イギリスの『カンタベリー物語』や日本の四国遍路に見られるように近代以前から存在していたといいます。次に、ゴードン教授は、2015年、日本政府がユネスコに明治日本の産業革命遺産を世界遺産登録候補に提案した際、登録に意義を唱えた韓国政府と日本政府の間に起こった議論について分析しました。そして、産業革命賛美論の明るい語り方、強制労働の残虐さの暗い側面ばかり強調する立場、そのどちらにも問題があることを指摘し、「明るさ」と「暗さ」を結んで複雑な歴史を考えることが必要だと主張しました。

 

複数の視点を取り入れた「ダーク・ツーリズム」の可能性
ゴードン教授は今後の研究課題として、どのような方法を用いれば複数の視点を取り入れる語り方が可能になるのかを考察しました。例えば、ローカルな視点を取り入れた研究を行う際には地元の視点が一枚岩ではないことに目を向けなければならないこと、さらに、ある場所がどういう過程で観光名所になったのかを明らかにする歴史的場所としての歴史研究も大切であると唱えました。

鼎談
講演会に続いて、ゴードン教授、主に社会学やカルチュラル・スタディーズを専門とする吉見俊哉教授、また、日本の政治・外交を専門とする朴喆熙(パク・チョルヒ)教授の三名で鼎談を行いました。まず、吉見教授は、ゴードン教授のこれからの研究を「場所に注目して資本主義の歴史を眺める」プロジェクトであると評価し、場所に注目することで様々な演出や語りが多様に空間化される点に注目しました。その上で、ダークとは何か議論する必要があると指摘し、どの視点から見たときに暗く見えるのか、日本語で「観光」と言われるツーリズムの「光」は何を指すのかという疑問を投げかけました。次に朴教授は、抵抗、闘争、運動が絡み合いながら前に進む歴史を読み解こうとするゴードン教授の基本的な哲学に賛成だと述べ、特に日韓の間で単純化された歴史の捉え方を問題視しました。

Q and Aセッション
会場からは、歴史叙述にすべての視点を含めるのが難しい場合どのような取捨選択を行うべきか、情報を編集する側の恣意性も問題になるのではないか等、視点にまつわる質問が多数挙がりました。また、日本の学者たちの研究と比較したとき、アメリカで日本研究をすることにはどのような意味があるか、という研究者の視点と立ち位置に関する質問も寄せられました。これに対しゴードン教授は、距離を相対化したいとし、「(歴史には)過去と今という溝があるので、同じ日本人であっても、自分の過去を考えるときに(アメリカから日本を見るように)アウトサイダーとして見ている側面もある」と回答しました。

終了しました
開催日時 2019年6月21日(金)15:00-16:45(14:30開場)
会場

下記へ変更になりました 東京大学・鉄門記念講堂 (本郷キャンパス 医学部教育研究棟14階)

申込方法 事前申込制。280名(先着順、参加無料)
言語 日本語、英語(同時通訳有)
主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

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"

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保守党率いるイギリス政府の中国に対する認識は、2010年から2024年にかけて大きく変化しました。2010年、デーヴィッド・キャメロン首相は中国の台頭を機会と捉えていました。しかし、10年後には、政府は中国をイギリスの経済安全保障に対する最大の長期的脅威とし、海外での中国の自己主張に対する懸念が高まっていると表明しました。この期間に、イギリスと日本はますます密接な安全保障関係を築きました。イギリス政府の中国に対する認識がこの期間の日本への政策を決定付けたのでしょうか、それとも他の要因も同様の影響力があったのでしょうか?新しい労働党政府からはどのようなアプローチが期待されるのでしょうか?

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