東京カレッジ講演会「時間はなぜ逆に流れない?」講師:アンソニー・レゲット教授 - 東京カレッジ

東京カレッジ講演会「時間はなぜ逆に流れない?」講師:アンソニー・レゲット教授

日時:
2019.06.17 @ 17:00 – 18:30
2019-06-17T17:00:00+09:00
2019-06-17T18:30:00+09:00

アンソニー・レゲット教授による講演「時間はなぜ逆に流れない?」が開催されました

2019年6月17日、アンソニー・レゲット教授(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・名誉東京カレッジ長)による講演会「時間はなぜ逆に流れない?」が開催されました。レゲット教授は、低温物理学のパイオニアとして知られ、2003 年には超流動と超伝導の開拓的研究でノーベル物理学賞を受賞しました。講演では、なぜ時間が未来から過去に流れないのか、物理の法則から考察し、後半には質疑応答セッションを行いました。

司会の佐野雅己教授(副カレッジ長)による東京カレッジの説明に続いて、レゲット教授はまず、ニュートンの運動法則、電磁力学、量子力学から時間の方向性について考察しました。次に、車を駐車場から出すよりも入れるほうが難しいという例を挙げ、「無秩序というコンセプトを定義するには、どれだけのスペースがあるのか、どれくらいの可能な状態があるのかということによって定義できる」と結論づけた物理学者の議論を説明しました。レゲット教授は、以上の議論が「初期の状態がより秩序だっており、無秩序ではないということを前提としている」と指摘し、秩序の問題は「物事をそのままにしておくと、物事は最大限の無秩序さに至る」という熱力学の一般原則だけでは説明できないと述べました。そこで、宇宙論の人間原理にも言及し、ビッグバンまで遡って未解決の問題があることを示しました。

 

宇宙の未来は予測できるのか?

過去について考えることは、未来を考えることに繋がります。レゲット教授は宇宙の質量密度についての考察を紹介しました。宇宙が無限に拡大を続けるならば、宇宙はいずれ平らになります。ところが、宇宙が閉鎖的であった場合には、宇宙は最大のところまで拡大した後収縮を始め、最終的にはホット・ビッグクランチという塊になるとも考えられます。つまり、宇宙の未来において、乱雑さや無秩序が増えるのか、減るのか、またこのときに人間が生きていたとするならば、どちらの方向を見ているのか、その問いに対する答えはまだ出ていないと言います。

 

物理学の「常識」を超えて

物理学の過去500年間の歴史を振り返ると、そのときまで信じられていたこと、最も当たり前の常識的と思われていたことを捨てることで、物理学的に革命的な事象が起こってきました。例えば、コペルニクス、ハイゼンベルグ、ハッブルの意見は常識を覆しました。これをうけて、レゲット教授は、「過去が現在の原因となり、現在が未来の原因であるという常識は、もしかすると今後10年、100年、あるいは150年経て変わるかもしれません。そのときに大きな革命的な物理学が生まれますそれはチャレンジです。このアイディアに何らかのかたちで挑戦が投げかけられるというものだろうと思います。」と話しました。

 

 

QAセッション

フロアを交えた質疑応答セッションでは、若い学生たちが積極的に発言し、哲学、宗教という視点から生命全般についてどう考えるべきか、エントロピーと人類の幸福について、時間の方向性とコミュニケーションについてなど、私たちの人生や生活に関わる質問が多数挙がりました。他にも、タイムマシンを作ることが原理的に可能なのか、時間の不可逆性を測定する方法はあるのか、それにはどんな実験装置が必要なのか、といった技術についての質問が挙がりました。レゲット教授は、科学の分野において、問題設定を正しく行えば答えを導き出すことはそう難しくないと述べ、「質問の仕方が正しいかどうかということがわかっていないものほど難しい」と回答しました。

 

終了しました
開催日時 2019年6月17日(月)17:00-18:30(16:30開場)
会場

東京大学・山上会館大会議室(本郷キャンパス) ※両日共通

申込方法 事前申込制。120名(先着順、参加無料)
言語 日本語・英語(同時通訳有)
主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

個人主義の国・日本(講演者:John LIE教授)

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欧米諸国の「個人主義」に対して、日本社会は「集団主義」あるいは「集団志向」であると言われている。しかし、この説は間違いである。本講演では、通説に反論した後、この誤った考え方の系譜をたどり、その妥当性について論じる。

見えざるジェンダーから見えるジェンダーへ(講演者:岡田 トリシャ教授)

イベント予定講演会/Lecture

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本講演では、1980年代から2000年代初頭までの日本におけるフィリピン人トランス女性またはトランスピネイの移住経緯(移住前・中・後)に関するエスノグラフィ研究を取り上げる。交差的不可視性(Purdie-Vaughns & Eibach, 2008)の枠組みから、フィリピン人トランス女性の移住体験を、トランスジェンダー移住者が現在直面している問題の事例と関連づける。また、ソーシャルメディアや映画が、いかにしてジェンダーの(不)可視性を示し、交渉する場を作り出しているのかについても探求する。

発展途上国の環境問題:課税の役割とは?(講演者:Michael KEEN, 潮田フェロー)

イベント予定講演会/Lecture

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多くの低所得国は深刻な環境問題に直面している。よって、社会のニーズと経済発展に資金を提供するための税収が喫緊の課題となっている。環境税は、その両方の目的を満たせるのか。この講義では、最近出版された書籍を参考にしながら、低所得国が直面する多くの環境問題のうち最も差し迫った問題(大気・土壌の質、廃棄物管理、森林破壊、渋滞、気候変動への適応など)を評価し、税制の改善がそれらの問題への対処と多額の税収の引き上げにおいて、どの程度役立つかについて検討する。

駐日ジョージア大使に聞く 「内から見た日本、外から見た日本」

イベント予定対話/Dialogue

2024年12月13日 17:00以降視聴可能

日本文化や日本のビジネス慣習に深い知見と洞察を持つティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使と、海外から日本を多角的に研究してきた、グローバル外交史の専門家である島津直子教授が、東京カレッジの主要な研究テーマの一つである「内から見た日本、外から見た日本」について議論します。
ご一緒にお楽しみください。

ザ・サロン ー 東大教授との対話シリーズ シーズン3

イベント予定対話/Dialogue

12月2日以降 毎週月曜日 順次公開(17:00以降視聴可能)

東大の文系の卓越研究者をゲストに迎え、東京カレッジの島津直子教授と、東京カレッジに滞在中のUCバークレーのJohn Lie教授がホスト役を務める対談シリーズ。専門分野の壁を超えた対話を繰り広げます。
隣の席に座った気分で、分野の異なる専門家によるリラックスした会話に耳を傾けてみませんか?

Previous Events

公開済みイベント

競合からパートナーへ:銀行によるフィンテックへのベンチャー投資(講演者:Manju PURI教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年11月12日(火)10:30-12:00

銀行がフィンテックとの競争を乗り切るための戦略的アプローチとして、フィンテックの新興企業へのベンチャー投資を活用しているという仮説のもとに、その根拠について検討を行う。これまで、銀行のベンチャー投資がフィンテック企業により重点を置いていることが明らかにされている。その結果、フィンテックとの競合が激化している銀行においては、フィンテックの新興企業にベンチャー投資をする可能性が高いことが示唆される。さらに、銀行は、自社の事業と資産の補完性が高いフィンテック企業をターゲットにしていることが証された。よって、操作変数分析により、ベンチャー投資が投資銀行とフィンテックの投資先との間で業務上の協力や知識移転が行われる可能性が高まることが理解できる。

多文化・多言語対応の安全な大規模言語モデルの構築を目指して

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生成人工知能(AI)の利用が世界的に広まるにつれ、AIモデルが地域ごとの文化や言語におけるリスクや懸念を敏感に反映できることがますます重要になっています。そのためには、何がリスクや有害なコンテンツなのかを地域・文化ごとに特定する作業を更新し続けていくことが必要となります。この作業には、AIや情報セキュリティの研究者はもちろん、人文・社会科学の研究者、AIやメディアのプラットフォーマー達や実務家の方や政策関係者たちと継続的に議論できるコミュニティを形成していくことが重要となります。本イベントでは、このようなコミュニティを継続させていく枠組みについてお話します。

新内閣の経済政策: ウィッシュリストと展望

イベント予定パネルディスカッション/Panel discussion共催/Joint Event

2024年11月8日(金)8:00 - 9:15

自民党総裁選挙(9月27日)と衆議院議員選挙(10月27日)の2つの選挙が行われ、新しい首相が選出された。この2回の選挙では、多くの経済政策案が提示され、議論された。ウェビナーでは、採用される可能性の高い経済政策と、採用される可能性は低いが日本経済にとって望ましい経済政策について議論する。

ロボットを「殺す」50の方法(講演者:Jennifer ROBERTSON教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年11月5日(火)10:30-12:00

タイトルの「50 Ways」という言葉は、文字通りの尺度として捉えるべきではない。「50」は、単に「いくつか以上の数」を表す比喩である。ポール・サイモンのヒット曲「恋人と別れる50の方法」(1975年)では、6つの別れ方が提示されている。本講演では、ロボットを「殺す、終わらせる」ためのいくつかの方法と、ロボットが「死ぬ」いくつかの方法を検討する。ここで言う「死」とは、生命維持機能が永続的に停止することを広く定義している。また、「死亡した」ロボットがどのように処理されるかについても考察する。文化的な焦点は主に日本と米国である。人間もロボットも、いくつかの点で電気的な存在であるため、結論では、電気の供給が途絶えた後にそれぞれに何が起こるのかという問題を取り上げる。

東アジア・東南アジアのアイドル・ファンダム文化におけるクィア・ファンタジーの探求(講演者:Thomas BAUDINETTE氏)

イベント予定講演会/Lecture

2024年11月1日(金)14:00-15:30

本講演では、東アジアの確立されたアイドル市場(日本と韓国)と東南アジアの新興アイドル市場(フィリピンとタイ)の両方におけるアイドル・ファンダムの10年以上にわたるエスノグラフィックな観察をもとに、アイドル・ファンダムに関するこの説明に異議を唱える。そして、ファンの主観性が基本的に変容的であることが、周縁化された社会的主体が自分たちを不利にする社会構造を批判するために利用できるアイドルと結びついたクィア・ファンタジーの創造を促すことを主張する。さらに本講演では、アジア全域のLGBTQ+のファンが、アイドルのファンダムをどのようにクィアな空間へと変容させ、そこで彼らのファンタジー作品が、クィア解放という政治的プロジェクトに根ざした国境を越えた連帯を生み出しているのかを解き明かす。

日本におけるクィア人口学――西洋を前提に普遍化されたジェンダー・セクシュアリティに関する知を脱中心化する(講演者:平森大規 教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年10月24日(木)15:00-16:30

本講演では、日本の文脈を考慮に入れつつ、無作為抽出調査で性的指向・性自認を測定するための方法論的研究から得られた知見を紹介する。また、異性愛者の回答者が非異性愛者として誤分類される問題や、量的データにおいて異性愛者と非異性愛者を完全に分けることの難しさについても考察する。さらに、量的調査の性別欄において、ノンバイナリー回答者を捉えるために選択肢「その他」を用いることがあるが、性別を「その他」と選んだ回答者の半数はシスジェンダー女性である可能性があるという最新の調査結果について最後に述べる。


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