東京カレッジ講演会「歴史から学ぶ日本外交」講師:兼原 信克 - 東京カレッジ

東京カレッジ講演会「歴史から学ぶ日本外交」講師:兼原 信克

日時:
2020.01.24 @ 17:00 – 18:30
2020-01-24T17:00:00+09:00
2020-01-24T18:30:00+09:00

兼原信克氏による講演会「歴史から学ぶ日本外交」が開催されました

2020年1月24日に「歴史から学ぶ日本外交」という題名で、元内閣官房副長官補の兼原信克氏による講演会が開催されました。羽田正教授(カレッジ長)からの挨拶後、兼原氏から、産業革命以降の世界史について、権力闘争と世界戦争、植民地支配と人種差別、全体主義と独裁政治という3つのテーマに基づいて講演が行われました。また、それらのテーマにおける転機と関連して、良心の活性化(良心の呵責の活性化)をキーワードとして普遍的価値観について説明されました。

まず初めに、産業革命に纏わる言説や、現代に至るまでの200年以上に渡る産業革命のインパクトについて紹介されました。産業革命後、永遠に停滞すると言われていたアジアでも工業化した点ついて、勤勉で教育熱心な国民が産業革命を起こすことは必然であり、日本の成功もその例の一つであると、兼原氏は指摘しています。地球的規模で工業化が進み、一つの人類社会・一つの地球という意識が芽生えるに伴い、人類全体の道徳的な成熟も進みました。講演では、その過程を振り返り、20世紀の日本が歩んだ軌跡を世界史の中で批判的に考察し、世界史の中での日本外交について評価されました。

近代史の前提として、世界秩序を根本的に組み替えて今日の国際秩序を作ってきたのは、17世紀末におきた産業革命後の一握りの工業国、今日の先進工業民主主義国家と言われる国々でした。それらの国々が唱えた自由と平和、民主主義・法の支配などの価値観の普遍性は、今日の国際社会で認められるようになり、200年の時間をかけて自由主義的な国際秩序の基盤を提供してきたと兼原氏は述べています。言い換えると、自由主義に基づく国際秩序やルールに基づく国際秩序が地球規模で広がったのは、ごく最近であるということです。

この200年の間、先行した工業国家によって引き起こされた2つの世界大戦や植民地支配、人種差別の残虐性や悲惨さを地球規模で共有・経験してきました。兼原氏は、それらの問題が国内および国際的な序列やリーダーシップのための権力闘争や派閥抗争に起因すると指摘し、各国の政治思想・政治体制も問題に大きく影響していると説明しました。そして、そのような状況を経て良心の活性化が促され、道徳的成熟へと繋がり、現在の自由平和や民主主義、個人の尊重といった普遍的価値観が地球規模で共有がされるようになったと述べました。講演では、国や人物(ガンジー、キング牧師、ネルソン・マンデラなど)の具体例を挙げ、植民地支配と良心の活性化等について兼原氏は説明しています。

それでは、なぜ日本は戦争を選び、どこで間違えたのでしょうか。兼原氏は、日本の統帥権(軍の指揮権)独立が原因であると指摘しました。陸軍・海軍の権力が強まり、独断的にドイツ(ヒトラー)に追随するという判断をしたことが大きな誤りであり、政治・外交・軍の三者のバランスが取れていれば、世界(日本)は変わったと述べました。

講演後の城山英明教授(東京大学大学院法学政治学研究科)との対談では、日本の誤りと現在の日本の政治体制について、更に詳しく説明されました。大戦当時の統帥権独立に付随し、各省庁が主権国家になり、各省庁の官僚が決定権を持つこと(官僚政治)の問題点を言及し、今後の政治や外交戦略についてマスコミや学会からのアジェンダも含め、より本格的な検討が必要になると説明されました。実存主義や仏教的思考(良心)に基づき、自分自身を見つめるもう一人の自分の存在が、個人や国家にとって重要ではないかと話されました。

道徳的成熟や良心の活性化が動いて歴史が作られると兼原氏が述べられたとおり、国際社会における現在の問題点や、近代的個人(自分)とは何か、今後の社会や政治の在り方について考えさせる講演会でした。

終了しました
開催日時 2020年1月24日(金)17:00-18:30(16:30開場)
会場

東京大学・理学部4号館2階1220号室(本郷キャンパス)

申込方法 事前申込制(席数180。定員を超えた場合は立ち見となります)
言語 日本語 (Japanese language only)
要旨

普遍的価値観に基づく外交戦略

産業革命に先行した一部の工業国は、国力を飛躍的に増大させ、一気に国際秩序を組み替えた。その過程で、彼らは、植民地支配、人種差別、世界戦争、全体主義という過ちを犯した。しかし、20世紀後半には、アジア、アフリカ諸国のほとんどが独立し、人種差別が否定され、個人の尊厳、自由平等、多様性の尊重、民主主義、市場経済、法の支配を基盤とする 自由主義的な国際秩序が立ち上がった。日本は、何故、新しい秩序の登場を待てなかったのか。歴史の教訓を踏まえた21世紀の外交戦略はどうあるべきかを考える。

プログラム

[第一部]講演
[第二部]対談 城山 英明

城山 英明 (東京大学大学院教授)
法学政治学研究科教授、公共政策大学院教授、政策ビジョン研究センター副センター長。専門は、行政学、国際行政論、科学技術と公共政策。

講師プロフィール

兼原 信克(元内閣官房副長官補)

昭和56年、東京大学法学部を卒業後、外務省に入省。在アメリカ合衆国日本大使館公使、総合外交政策局総務課長、在大韓民国日本大使館公使、国際法局長を歴任の後、平成24年、内閣官房副長官補に就任、平成26年からは国家安全保障局次長を兼務。令和元年、退官。

主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

今日は「ディスインフォメーション」の時代か、それとも「戦略的コミュニケーション」の時代か?(講演者:Neville BOLT氏)

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Previous Events

公開済みイベント

平和、安全保障と人工知能

イベント予定講演会/Lecture

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本講演では、広範なセキュリティ領域にわたってAIシステムがもたらす固有のリスクについて掘り下げ、最後に、これらの技術に関連するリスクを防止・軽減するためのガバナンス・モデルの提案について、いくつかの知見を紹介する。その中には、拘束力のある規範、基準、ガイドラインを精緻化する必要性や、これらの規制を実施し、説明責任、被害に対する救済措置、緊急対応を通じてコンプライアンスを確保する適切なメカニズムを備えた一元化された当局を通じた監視、モニタリング、検証、検証機能の必要性が含まれる。

出版記念会:「キーウの遠い空-戦争の中のウクライナ人」(講師:Olga KHOMENKO氏)

イベント予定講演会/Lecture

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2023年7月25日、中央公論新社からホメンコ氏の著書『キーウの遠い空─戦争の中のウクライナ人 』が出版された。ウクライナ戦争を独自の視点でとらえた一冊である。
この本は、ホメンコ氏がウクライナで体験した戦争や、家族、友人、元教え子から聞いた話に基づいて執筆された。ホメンコ氏は2022年の初めに日本のメディアの取材で、ウクライナの歴史や文化に関するインタビューを受けたが、その際の質問が、ウクライナの歴史に関する知識をあまりにも欠いていたため、インタビューに応じる代わりにウクライナ人の声を届けるために日本語で本を執筆することにした。

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イベント予定講演会/Lecture

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グローバリゼーションの未来: 歴史の視点から(講演者:Bill EMMOTT氏)

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グローバリゼーション―貿易、金融、思想を通じた国々のつながり―は後退しているように見える。各国政府は地政学的な緊張により、経済的保障を優先させ「リスク回避」に努めている。しかし、グローバリゼーションの後退が言われるのは、これが初めてではない。歴史を振り返ることで、どのような要因が今後のグローバリゼーションの行方を真に左右するのか理解することができるだろう。

日本における同族経営医療法人(講演者:Roger GOODMAN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月30日(木)14:00-15:30

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21世紀の中央銀行(講演者:Luiz Awazu PEREIRA DA SILVA教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月29日 (水)15:00-16:30 JST

21世紀の中央銀行は、5つの岐路に直面している(1. インフレとその不透明性の再現、2. 気候変動、3. 不平等、4. デジタル金融イノベーション、5. 人工知能)。これまで、中央銀行は課題に直面した際、分析的思考を強化し、適切にリスクを均衡させ、最善の道を選択してきた。現在、中央銀行が直面する新たな課題は、中央銀行がそれらの挑戦的な影響を慎重に特定し、分析する必要があることを示唆している。


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