東京カレッジ講演会「ニュートリノの不思議な世界」講師:梶田 隆章 - 東京カレッジ

東京カレッジ講演会「ニュートリノの不思議な世界」講師:梶田 隆章

日時:
2020.01.20 @ 17:00 – 18:30
2020-01-20T17:00:00+09:00
2020-01-20T18:30:00+09:00

梶田隆章教授による講演会「ニュートリノの不思議な世界」が開催されました

2020年1月20日に「ニュートリノの不思議な世界」という題名で、ノーベル物理学賞受賞者で東京大学卓越教授・特別栄誉教授・宇宙線研究所長の梶田隆章教授による講演会が開催されました。羽田正教授(カレッジ長)からの挨拶後、梶田教授からニュートリノについての紹介があり、岐阜県で行われたスーパーカミオカンデ実験の概要、ニュートリノ振動の発見、ニュートリノの質量と宇宙について講演が行われました。なぜ、目に見えないニュートリノという粒子が存在することが分かったのでしょうか。講演では、発見に至る過程について紹介しています。

まず初めに、1980年代に岐阜県飛騨市神岡町の地下にカミオカンデという装置が建設され、1950年代に発見された素粒子ニュートリノの研究が始まったことが紹介されました。その後、ニュートリノの研究を発展させるため、スーパーカミオカンデという装置が建設されました。これらの装置を使って研究を行い、その結果ニュートリノに小さな質量があることがわかりました。このニュートリノ振動の発見に至るまでの研究過程を振り返り、なぜ電化を持たないニュートリノの小さな質量が重要と考えられているのか、梶田教授が説明しました。

講演後は、学生との質疑応答を行いました。最初の質問では、研究を行う上で予想の半分以下のデータしか取れなかった際の気持ちや、その状況から研究の成功に至るまでのプロセスについて尋ねられました。研究当初、予想したデータではなかったので問題があると感じ、研究者として駆け出しの頃の焦りや不安を抱えていたという梶田教授は、研究内容に自信を持つにつれ、研究に対してわくわくした気持ちが湧いてきたと話されました。また、通説とは異なるデータを得たことで、そのデータの理由を突き止めることが科学者としての義務であると、研究分野内では少数派だったものの諦めずに研究を継続した理由を述べられました。研究チームのリーダーシップに関しては、およそ100人のメンバーがニュートリノの重要性を認識し、同じ方向を向いて研究にあたったことで、協力しやすい職場環境を整えられたのではと回答されました。

その後、梶田教授の趣味、研究に対しての心構え、研究者の向き不向きなどについて、学生やフロアから様々な質問が挙がりました。梶田教授から、学生時代の部活動の苦い経験が研究に対する「気を緩めずに最後までやり遂げる」姿勢に繋がったことや研究が梶田教授にとって「心が躍るもの」であることなどが語られました。女性研究者の研究と家庭の両立に関する質問では、日本ではまだ遅れているが、研究と家庭の両立は世界では当たり前になっているとして、具体的な学生の例を挙げ、どちらか一方を選ぶ必要は無いと悩みの渦中にいる質問者を励まされました。また、意志を貫くための秘訣について尋ねた質問者に対しては、目指すものを持ち、その面白さを心の片隅においておくことを挙げました。質量や素粒子に関する物理学の質問だけでなく、研究者としての研究に対する姿勢についての質問も多く、時折笑いも交えた和やかな質疑応答となりました。

終了しました
開催日時 2020年1月20日(月)17:00-18:30(16:00開場)
会場

東京大学・安田講堂(本郷キャンパス)

申込方法 事前申込制。700名(先着順、参加無料)
言語 日本語 (Japanese language only)
要旨

ニュートリノ振動の発見に至るまでを振り返る
1980年代に岐阜県飛騨市神岡町の地下にカミオカンデという装置が建設され、素粒子ニュートリノの研究が始まりました。その後ニュートリノの研究を発展させるため、スーパーカミオカンデという装置が建設されました。これらの装置を使って研究を行い、その結果ニュートリノに小さな質量があることがわかりました。この発見に至る研究の過程を振り返ります。また、なぜニュートリノの小さな質量が重要と考えられているのかということについても紹介します。

講師プロフィール

梶田 隆章(東京大学卓越教授・特別栄誉教授・宇宙線研究所長)

物理学者。地球の大気で生まれた大気ニュートリノを観測、移動中に粒の種類が変わる現象「ニュートリノ振動」を観測してニュートリノに質量があることを発見。その功績により2015年にノーベル物理学賞を受賞。

主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

平等な権利と不平等な現実: 日本における法とジェンダー平等(講演者:Frank UPHAM教授)

イベント予定講演会/Lecture

2025年5月7日(水)10:30-12:00

日本は、同レベルの諸外国と実質的に同じように男女差別を禁止しているにもかかわらず、ジェンダーギャップ指数においては146カ国中118位で、ドイツより111位、アメリカより103位も低い。なぜなのか? 日本の文化は、女性が家でおとなしくしていることを求めているのだろうか? もしそうなら、なぜ女性の大学卒業率は男性より高いのか? なぜ女性の労働参加率は高いのか? 女性たちが雇用差別訴訟を起こし、勝訴するのはなぜか? 本講演ではこれらを考察し、その理由について暫定的な--極めて暫定的な--見解を述べる。

世界文学を超えて(講演者:William MARX教授)

イベント予定講演会/Lecture

2025年5月8日(木)10:30-12:00

少なくとも19世紀以降、世界文学は現実のものとなった。テキストは大陸や文化を越えて旅をし、あらゆる言語から翻訳され、世界中の大学で教えられ、新たなグローバルな規範を形成している。これほど自由に、どこにいても好きな作品を読むことができる時代はかつてなかった。あるいは、そう思えるかもしれない。しかし、それは本当の自由なのでしょうか?単なる心地よい幻想にすぎないのでしょうか?この一見無限に広がる文学の交流には、どのような境界があるのか。本講演は、その限界を探り、文学への新しいアプローチを提案することを目的とする。それは、まったく新しいテキストの読み方、あるいは、かつて存在し忘れ去られた方法かもしれません。
ようこそ、「世界の図書館」へ!

旧約聖書は王国滅亡をどう語ったか:危機と自然をめぐる3つの言説(講演者:Thomas RÖMER教授)

イベント予定講演会/Lecture

2025年5月22日(木)13:00-14:30

紀元前587年のエルサレムの陥落・ユダ王国の滅亡に関連して、旧約聖書(ヘブライ語聖書)には自然や環境に対する異なる言説が見られます。 本講演ではドイツの社会学者アルミン・シュタイルの分析にならい、国家的危機を前にした人々の姿勢を 1) 預言者(危機の後に人間、自然、動物が調和する楽園のような未来が訪れると考える)、2) 官吏(自然災害を神の裁きと捉え、環境に関心を払わない)、3) 祭司(現在の儀式につながる神話的な過去を構築し、人間と自然の調和をめざす)に類型化して読み解きます。生きとし生けるすべてのものとの共存について、聖書は私たちに多くのことを教えてくれるでしょう。

Previous Events

公開済みイベント

ネイチャー・ベースド・マーケットの設計と拡大(Beatrice WEDER DI MAURO教授)

イベント予定講演会/Lecture

2025年4月23日(水)15:00-16:30

カーボンマーケットやネイチャー・ベースド・マーケットは、信頼性の低さ、高コスト、規模の限界に悩まされており、必要とされる水準には程遠い状況である。本講演では、Beatrice Weder di Mauro教授が、Estelle Cantillon教授とEric F. Lambin教授と共同開発した新しい市場デザインを紹介する。そこでは、自治体など行政区が大規模なプロジェクトを提供し、投資家は土地の所有権を付与することなく、炭素および生物多様性の『配当』を生み出す株式を購入する仕組みになっている。これにより、市場価格は需要を明らかにし、流動性を高める。これらはクレジットベースのシステムと比較して、このアプローチはコストを削減し、信頼性を高め、長期的なコミットメントをサポートする。本講演は、今日の市場を阻む核心的な問題に取り組み、真の環境影響力をもって規模を拡大する信頼できる道筋を提供する。

「来館者中心」の博物館が意味するもの(講演者:Leslie BEDFORD教授)

イベント予定講演会/Lecture

2025年4月22日(火)14:30-16:00

モノから人への移行を意味した「Being about Something to Being for Somebody(何かについてから誰かのためへ)」という表現は、1999年に『Daedalus』誌に掲載されたアメリカの博物館に関するステファン・ヴェイルの論考の印象的なタイトルである。この表現は数十年を経てもなお、博物館界で共鳴を呼んでいる。それは、博物館が学芸員が定めた情報や機関の目的を優先する在り方から、来館者の体験やより広い地域社会を重視する方向へと変化してきたことを象徴しているからである。ただし、その実践には課題も伴ってきた。
本講演では、長年にわたり博物館の専門家および博物館学の教育者として活動してきたレスリー・ベッドフォード教授が、ヴェイルの言葉の意味を考察し、それがどのように博物館において実践されてきたかについて検討する。ベッドフォード教授が日本で訪れた博物館の事例に加えて、来館者中心の実践に関して、日本の博物館専門家や研究者との一連のオンライン対話を通じて得られた議論の成果を紹介する。そして「来館者中心」という考え方が、今日において、そしてこれからの時代に何を意味しうるのか問う。

黒死病の世界:新たなアプローチ(講演者:Patrick BOUCHERON教授)

イベント予定講演会/Lecture

2025年4月16日(水)10:00-11:30

1347年からヨーロッパに広がった第二次ペスト大流行は「黒死病」と呼ばれ、史上最大の人口災害として知られている。今日では、葬送考古学、人類学、微生物学、環境科学を組み合わせた学際的研究により、ペスト研究のアプローチは大きく変容した。DNA分析や気候研究の進展は新たな理解をもたらしたが、長期的で世界規模の出来事をどのようにしてグローバル・ヒストリーとして叙述すべきか、という課題は残されている。ペストの流行経路は世界のつながりを示すが、その正確な地理は依然として不明瞭である。それはまるで群島のように不連続でありながらもグローバルな広がりを持つ。

役に立たない機械の目的とは何か(講演者:Dominique LESTEL教授)

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ヒューマノイドロボットが注目されているが、実際に人間やその他のロボットと比べてヒューマノイドロボットは何を得意とし、安価であるのかを正確に特定することは難しい。その問題は哲学者にとって大きな課題となっている。本講演では、2017年に市民権を与えられた最初のヒューマノイドロボットであるソフィアを事例として取りあげ、その奇妙な機械が、救世主機械(他の機械の到来を告げる機械)、形而上学的機械(誰が人間か、誰が生きているかなど、根本的な形而上学的質問を私たちに強いる機会)、そして魔法の機械(危険な機械への恐怖と戦うのに役立つ機械)の役割を担うことにより、社会において繊細な位置を占めていることを論じる。

言語における協働──記録から再興へ(講演者:Mark TURIN教授)

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"本講演では、これまでMark TURIN教授が関わってきた、歴史的に周縁化されてきた先住民族コミュニティとの2つの協働プロジェクトについて議論する。対象となるのは、ヒマラヤ地域および北米先住民社会であり、彼らはそれぞれの言語を保存し、再興するために取り組んでいる。本講演では、「収集(Collect)」「保護(Protect)」「つながり(Connect)」という3つの言葉について探求する。
"

ブリュッセル効果への対応:日本企業はEU-AI法にどう備えるべきか3

イベント予定パネルディスカッション/Panel discussion講演会/Lecture

2025年3月19日(水)12:00-13:00

東京大学では2024年12月11日にEU-AI法の解説とCoPの第一ドラフトの解説、2025年1月15日に第二ドラフトの解説を行いました。本ウェビナーでは最後となるCoP第三ドラフトについての解説と、日本企業が特に留意すべき重要なポイントについて概説します。


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