TOKYO COLLEGE Booklet Series 1
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23 1. 重症化のメカニズムと臓器障害 カナダ出身のブロードウェイ俳優、ニック・コルデロが新型コロナ感染症にかかり、集中治療室で体外式膜型人工肺(ECMO)などを用いて治療していましたが、血栓症を起こし右脚の切断を余儀なくされました2。 最近、COVID-19では、凝固異常や血栓症の合併症が高いことが認知されるようになり、突然死の原因や病態の悪化につながっていることが分かってきました。若年層でも脳梗塞などの発症例も報告されています。血栓症には、脳梗塞や心筋梗塞など動脈側にできるものと、エコノミー症候群などに代表される静脈側にできるものがありますが、COVID-19の場合は血栓症が動脈側にも静脈側にもできることが分かってきました。 COVID-19は、表面にあるスパイク蛋白がアンジオテンシン変換酵素Ⅱ(ACE2)と結合して、一緒に細胞内に沈み込んで侵入します。すると、表面にある本来のACE2の数は減ります。ACE2は元々、レニン・アンジオテンシン系(RAS系)の構成要素で、アンジオテンシンⅡを分解する作用があるのですが、ACE2が減るとアンジオテンシンⅡが増え、炎症を起こしたり、血圧が上がったりします。RAS系は、成人病や高血圧、糖尿病、動脈硬化などに深く関与していることが分かっています。つまり、COVID-19はRAS系を一気に加速させる働きがあり、現代社会において警笛を鳴らすウイルスであるという感があります。 RAS系は元々、人類の祖先が進化する過程で海から陸へ上がるときに、水分と塩分を体内に保持するために獲得したシステムなのですが、文明が発達した現代社会では、RAS系を抑えることが成人病抑制の鍵となります。結局、血管系の基礎疾患や成人病を持っているような人がCOVID-19 2 Nick Corderoは、このシンポジウムが開催された後の2020年7月5日に亡くなりました。

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