TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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14 きにつながったり、行政の非人間性を示しているといったことも書かれていて、こういったジレンマも現代のコロナ禍で私たちが日々遭遇している光景ではないかという気がします。 2.『『ペペスストトのの記記憶憶』』のの現現代代性性 なぜ『ペストの記憶』がこんなに現代的なのかというと、作者のデフォーがロンドンに生まれ、ジャーナリストであり商人でもあったことが非常に重要ではないかと思います。だからこそロンドンの市民生活の描写が非常に真に迫っているのでしょう。また、描かれている舞台がロンドンの中でも「シティー」であることが多いのも、本書の現代性と関連しているでしょう。シティーという空間は、古来自治を許されていた場所です。シティーの行政は王侯貴族やイギリス政府はあまり介入していませんし、少なくともこの作品ではそのような場面がほとんど出てきません。むしろ特徴的なのは、市長(ロード・メイヤー)と市民が非常に近い立場で描かれていることです。ですので、市民が市民を統治するような、現代にも通じるような社会のあり方が描かれています。 そして、市民生活に政治が介入するときの効用と危険もかなり的確に描かれています。何しろ市民の代表であると自覚している市長が管理しているので、非常にきめ細かく市民生活に対して指針を出したり、いろいろと口を出したりします。この市長の管理のおかげで一面においてはペストの対策が有効に機能したのですが、同時に先ほど中島先生からもお話があったように、ある種の監視社会のような問題も描かれています。ロンドン市民であったデフォーが行政側と市民側と両方の視点からペスト禍を描いた結果、今日にも通じるような感染症の状況や対策に関するさまざまな問題提起がなされているといえます。

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