TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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16 けですが、本当に統計が正しいのかといったことも言われているので、同じようなことが起きていたのだということがよく分かります。 私は『ペストの記憶』を2011年に翻訳し始めました。この年は東日本大震災や福島原発事故があり、当時も私たちは日々、放射線量を巡る政府の発表を聞いて、果たしてこのデータをどう受け止めたらいいのかということを常に悩んでいて、専門家たちの説明を聞いても何を信じればいいのかが分からなくなっていたと思います。ですので、私が先ほどの場面を訳していたとき、2011年の日本の状況とぴったり一致していると思って驚いたのです。 その後、日本や世界がどのような状況になったかということを考えてみると、データへの不信、あるいは広い意味での科学的真実への不信が生まれた結果、最終的にどうも客観的事実などあり得ないというシニカルな雰囲気が蔓延し、その結果「ポスト・トゥルース」と呼ばれるような事態が出現して、日本だけではないと思いますが、統計や文書の改ざんや恣意的な解釈が黙認されるような世の中が生まれていったような気がします。ひょっとしたら、コロナ禍における統計への不信や統計を巡る問題は、日本で2011年以降に浮上したある種のシニシズム、ポスト・トゥルース的な状況を克服する契機となるかもしれません。いや、そうなることを期待しています。 3. 新新ししいい時時代代にに向向けけててのの課課題題とと提提案案 今回の危機を振り返って、何が明らかとなり何が未解明なのか、考えを簡単に申し上げます。

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