TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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26 それから、個人の行動を逐一追跡・監視する技術が実現し、そのことがまた感染症の予防や抑圧に有効かもしれないと人々が期待しているからです。そこでは安寧な生命・生活・生存は保証される代わりに、人権・自由・私権といった近現代を貫いた価値は形骸化しています。 こうした終焉を迫られている現代を先取りしていたのは、実を言うと東アジアだったのではないかと考えられます。欧米ではありません。日本では早くから新しい時代の予感、予想が宮崎駿や伊藤計劃によってなされていました。ところが、実際に転換に成功し、コロナ危機の時代に社会実装したのは中国や韓国や台湾であって、日本はむしろその点で非常に牧歌的状況にとどまっています。20世紀初頭の社会主義や国際労働運動や民族独立運動の担い手たちは、人権や自由や主権といった価値を求めたわけです。そして彼らの多くは、スペイン風邪を経験しました。その人たちが今のコロナ危機の世の中を見たときに、何を思い、主張し、行動するのかを想像する力が歴史研究には求められていると思います。

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