35 中中島島 3名の先生方のご報告を伺って、それぞれが非常に緊密に結び付いていると感じました。価値というテーマからコロナ危機を考えているのですが、おそらくその中心になってくるのはデモクラシーの価値であり、それをどのように立て直していくかが問われています。このことが明らかになってきたかと思います。 武田先生は、翻訳の中で非常に素晴らしい解説をお書きになっていまして、そこに印象的なフレーズがあります。「市民による、市民のための統治は、ペストという外敵からロンドン全体を守るためならば、何者かを犠牲にすることを決して厭わない」(354頁)。ここには、ひとつの政治的な決断の風景があります。それから350年以上たって、私たちはどの方向に進んでいるのでしょうか。それとは異なる方向なのか、あいかわらず同じ方向なのか。 また、先生方の議論の中で繰り返し出てきたバイオポリティクス(生政治)やバイオパワー(生権力)も、価値を考える際にはきわめて重要です。人々の生(ライフ)をどう概念化して、どう摑んでいくのかは、人類の歴史の中でもずっと存在する政治的な課題です。 20世紀は、バイオポリティクスが一つの頂点を迎えた世紀です。ライフという概念があちこちに浸透し、私が専門にしている哲学でもライフの価値は驚くほど上昇しました。小野塚先生が皮肉を込めておっしゃったように、命の安全のためなら死んでもかまわないという現象が生じたわけです。 トマス・ホッブズの論などを見ても、バイオポリティクスとデモクラシーは非常に深刻な問題でした。近代のバイオポリティクスは、疫病と健康と主権の3つの概念が絡み合ったところで形成されています。つまり、キケロの「人民の健康が至高の法であるべきである」という考えが、近代に
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