16 的な視野でこの問題を考えることができないかという思いから、「価値」というシンポジウムを組み立てました。 3名の先生方をお招きし、具体的にはロンドンを襲った1665年のペスト、20世紀の第1次世界大戦とそれに続くスペイン風邪の議論を踏まえた後、現在におけるデモクラシーの問題をどう考えていくのかを軸にして、価値の問題を考えました。その際、新型コロナウイルスは、既知であるけれども、わたしたちがこれまで手を付けることができなかった諸問題をあぶり出してしまったのではないか、そして、コロナ危機に対応する際の意思決定の在り方まで含めた新しい社会の在り方が求められているのではないかを議論しました。それは、何よりも人間の生(ライフ)をどのように構想するのかという、価値に関する構想力が問われているということだと思います。 最初のご報告は、総合文化研究科の武田将明先生にお願いしました。武田先生は3年前、デフォーの『ペストの記憶』を翻訳出版されました。デフォーは『ロビンソン・クルーソー』で有名ですが、彼は5歳のときに経験した1665年のペストを背景にこの本を書いています。これを読むと、衛生のための隔離がロンドンの行政府のメンバーによって徹底的に行われており、それがわれわれの今の状況とほとんど変わらないことがわかります。本の中では、「市民による市民のための統治は、ペストという外敵からロンドン全体を守るためならば、何者かを犠牲にすることを決していとわないものであった」と書かれています。市民による市民のための統治という一つのデモクラシーの在り方が、プラスとマイナスの両方に機能してしまっていることが『ペストの記憶』では如実に書かれているのです。 武田先生はこれを2011年に翻訳し始めました。東日本大震災があった年です。そこでわれわれが直面したのは、原発事故をめぐる科学技術とデータへの不信でした。それと今の状況はあまりにも対応しているのではな
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