TOKYO COLLEGE Booklet Series 7
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35 それが極まったのがナチズムのような全体主義だったと思います。そこでは、人民不在の空間が目指されたのです。 しかし、21世紀においてそれを繰り返すわけにはいきません。21世紀型のパンデミック・デモクラシーは、今度こそ民衆がある形で現前するようなものにしなければなりません。ただ、それがルソーのようなタイプになってはまずいだろうと私は思っています。人々の健康が本当に尊重されるときには、今日の報告でも申し上げましたが、自由か安全かという二者択一ではない仕方で、健康も考えなければならないと思うのです。恐らくわれわれのライフ(生)に対して、より繊細なアプローチが必要なのです。そのためには、諸概念をもう一度鍛え直さなければならないと思います。 例えば、新型コロナウイルスに対して、いまだに戦争という比喩が使われています。それは、非常にうっかりした使い方だと思いますが、戦争という概念が20世紀にどう使われたのかをもう一度思い出せば、そう安易には使えないはずです。また、ある種の専門家に閉じた神話化された科学主義が用いる諸概念も脱構築しないといけないと思います。そうした概念の吟味を通じて、民主主義のアップデートが求められており、私は大学がイニシアチブを取ってそれらを行うことが大変期待されていると思っています。 赤赤藤藤 次に、星先生にお伺いします。「経済」のセッションのまとめで、生命と経済の両立のための施策もデータと科学的エビデンスに基づいていなければならないというご指摘がありました。ところが、元々データに入っていない労働もあります。例えば家事労働がそうです。コロナ禍で企業の経済負担は多く語られますが、外出自粛や学校閉鎖で増えた家事労働の負担はあまり語られることがありません。経済のセッションでも、コロナ禍でGDPが低くなってしまったのは、低迷した経済活動の代わりに増えた家事労働がGDPに反映されていないのも一因だとおっしゃった先生

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