TOKYO COLLEGE Booklet Series 8
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18 藤藤垣垣 裕裕子子((総総合合文文化化研研究究科科教教授授)) 私の専門は科学技術社会論です。科学的知見と社会との間の問題について東日本大震災以降、そしてCOVID-19の下でいろいろな議論がなされていますので、それに関することを科学技術社会論の立場からご紹介したいと思います。 提起されている課題は、不確実性事象の扱い方、リスクコミュニケーションの在り方、科学的助言の在り方ですが、私は2020年4月から10月にかけて「科学技術社会論の挑戦」というシリーズの本を責任編集者として東大出版会から出版しましたので、それをベースにこの三つの問いについてお話ししたいと思います。 1. 不不確確実実性性事事象象のの扱扱いい方方 まず、不確実事象の扱い方についてです。そもそも科学的知見は時々刻々と書き換えられるものです。そして、COVID-19に関する科学的知見はまだ不完全であり、世界中の科学者がまさに時々刻々と知見を更新しつつある「作動中の科学」の中にあります。 「作動中の科学(science in making)」という概念は、科学技術社会論の分野では有名なラトゥールという人類学者によって提唱されました。人類学者は通常、未開民族の中に入っていき、その社会を記述しますが、彼は未開民族の代わりに米国の甲状腺刺激ホルモンを研究していた研究所に入り、科学者の行動を逐次記述していったのです。そこで、科学的知見は常に作られつつあるものだという、科学者にとっては当然だけれども一般の人にとっては分かりにくい事象をscience in makingと表現したのです。

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