ジェンダー、セクシュアリティ、アイデンティティ
アイデンティティのカテゴリーは、共通項をもつ人を互いに結びつけることもあれば、相違点を理由に人を分け隔てることもあります。この緊張関係は、特にジェンダー/セクシュアリティ・アイデンティティについて見られます。もっとも、フェミニスト間やLGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアなど)の間では連帯が生まれる可能性もあります。その一方で、ジェンダー不平等、同性愛嫌悪、トランスジェンダー嫌悪が世界各地で根強く残っています。ジェンダー/セクシュアリティ・アイデンティティは、なぜそうした異なる経験を生み出すのでしょうか。私たちはより公正な世界をつくるために、どうすれば協力し合えるのでしょうか。こうした問題意識をもつ東京カレッジの教員と研究者で「ジェンダー・セクシュアリティ・アイデンティティ研究会」をつくりました。
研究会は隔週で集まり、フェミニズム研究、ジェンダー研究、セクシュアリティ研究の知見について議論し、これらのテーマに関するそれぞれの研究を報告しあっています。研究会のメンバーは互いに学び合えるように、対話が広がる安全な空間をつくることを目指しています。上下関係のない運営を心がけ、メンバーが交代で進行役を務め、読むべきテキストを順に選んでいます。共同研究を行なうだけでなく公開イベントを企画し、東京カレッジ以外のジェンダー・セクシュアリティ研究者とも交流して、議論を共有する場をつくっています。また、精神疾患や神経発達障害、薬物依存症を抱えるLGBTQ+を支えるピアサポート団体のメンバーから話を聞き、それをもとに会話形式のブログを書いてもいます。全体としてこの研究会は、互いの研究を後押しするだけでなく、学問の世界、日本での日常生活、さらにはグローバル社会を生き抜く個人としても、メンバー一人ひとりをサポートできればと願っています。
研究会で議論されてきたことですが、フェミニズムについて単一のビジョンや定義はありません。とはいえ、私たちは交差性に着目してフェミニズム研究に取り組んでいます。つまり、家父長制や異性愛主義、シスジェンダー主義、レイシズム、健常者優位主義、資本主義などの権力システムは連動していて、その結果、個人のジェンダーやセクシュアリティ、人種、国籍、能力などに応じてある種の特権や課題が生じるのだと認識しています。したがって、研究会のメンバー間、さらには日本と世界の他のフェミニスト間の意味ある違いを明らかにするために、ポジショナリティとアイデンティティの問題に留意して共同研究に取り組んでいます。
現在、次のような問題やテーマについて研究しています。
- ジェンダーとセクシュアリティの正義
- 家父長制、異性愛規範、シスノーマティビティに関するシステムとイデオロギー
- 交差性
- フェミニスト理論とその応用・実践
- クィア理論とLGBTQ+アクティビズム
- フェミニストの国境を超えた連帯
- 性と身体
- ジェンダーアイデンティティとパフォーマンスとしてのジェンダー
- 性/ジェンダー・システム
- フェミニストやLGBTQ+の活動に関する歴史文書アーカイブ
- フェミニスト障害研究
- LGBTQ+コミュニティにおけるメンタルヘルスとニューロダイバージェンス