バイリンガリズムのさまざまな側面(後編)
前編から続く
多文化の教室でどのように教育を行うか(小川 洸太 東京大学 学部生)
日本社会は単一民族国家であると今まで言われてきたが実際にはそうではなく、多様な文化的背景を持つ人々が暮らしている。近年では日本の学校でも日本人でない生徒(何を持って日本人とするのかは難しいが)が増えてきている。例えば、家庭ではポルトガル語を話すブラジル人の子供は小学校に入学する際には日本語は不自由だろう。誰だってバイリンガルになるには教育が必要である。私は教員になることが将来の選択肢のうちの一つなので多様な言語的、文化的背景を持つ生徒がいる上で教員がどのような配慮をするべきなのか考える。
まず挙げられるのが言語的障壁だろう。日本語が話せない生徒はどのように授業を受ければ良いのだろうか。日本の小学校には特別支援学級という障がいを持った生徒などが集まるクラスがあるが、日本語を話さない生徒もそこに集めるのが良いのだろうか。近年はインクルーシブ教育という考え方が海外から導入され始めている。これは障がいがある生徒を特別支援学級に入れるのではなく、「普通」の生徒と同じ教室で授業を受けることを目指すものである。
文部科学省はインクルーシブ教育によって、障がい者の子供たちが地域社会の一員として豊かに生きることを可能にするとともに、障がいのない子供たちも障がいのある子供と共に学ぶことで障がい者理解はもちろん、誰にとっても暮らしやすい公平な社会の実現する力を育てるとしている。これは日本語が不自由な生徒にも当てはまるだろう。彼らも、日本語を母語とする生徒と同様に授業を受け、共に生活する権利があるはずである。また、日本語話者の子どもたちにとっても今後どんどん多文化、多言語の社会となってゆく日本社会で皆と協力しながら生きてゆく力を身につけるきっかけとなるだろう。
ただ、教員が全ての言語に対応することが不可能であるのは自明であり、通訳のように生徒を陰から支える人材を確保するのも経済的に難しいことは明らかである。実際、ブラジル人が多く住む島根県出雲市は日本語指導が可能な支援員を採用しているが、ブラジル人の増加に、指導員の増員が追いついていないのが現状である。
以上のことを踏まえ、私が提案するのはデジタル技術の導入である。近年、翻訳関連の技術は急速に発展している。また、コロナの拡大を受け学校にもデジタル機器が導入されるようになった。これらを背景に、授業などで生徒が助けを必要とする場合、翻訳ツールを使うことを進めていくことが名案だと考えている。
参考資料
共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 概要.
平成30年度「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(出雲市)
共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 概要. MINISTRY OF EDUCATION CULTURE, SPROT, SCIENCE AND TECHNOLOGY July 2011 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm. 27/12 2023
平成30年度「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(出雲市)unwritten https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/001/1417394.htm/ 27/12/2023
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教育と言語保全(S.I. 東京大学 学部生)
言語保全へのアプローチの仕方は、法や行政のレベルから地元民による草の根の活動まで、多岐にわたる。本稿では、地域的な言語の保全活動において、行政レベルの教育政策は十分であるかどうか議論する。今回はフリジア語の事例のみを簡単に取り上げる。
フリジア語の保全が重要性をもつことは、行政レベルの共通理解として存在する。オランダ北部のフリースラント州(図1)で使用されているフリジア語は、州内ではオランダ語と並ぶ公用語として扱われている。また、フリジア人はオランダの少数民族として法的な地位を保障されており、独自の言語や文化を継承するためのさまざまな方策が採られている。教育政策についても、初等教育におけるフリジア語学習の義務化などにこの理念を見ることができる(Bayat, et al. 2023, pp.82-83; Ministry of the Interior 2018, pp.13-15)。
図 1. フリースラント州の位置
とはいえ、教育現場におけるフリジア語の地位は低下しており、教員不足や授業時間の短さ、授業実施の免除措置などが欧州評議会により指摘されている (Committee of Experts 2022, pp.26-29)。言語保全に向けた理念を提示すると言う意味で、政府機関は重要な役割を果たしているとは言える。ただし、実践の場である教育現場の重要性を強調しておかねばならない。地域的な言語の教育と保全には、理念と実践との相互の視点が要求されているのかもしれない。
参考資料
Bayat, Z., Kircher, R., & Velde, H. D. (2023). Minority language rights to education in international, regional, and domestic regulations and practices: the case of Frisian in
the Netherlands. Current Issues in Language Planning, 24:1, 81-101. https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/14664208.2022.2037291. Retrieved 15 January 2024.
Committee of Experts of the European Charter for Regional or Minority Languages (2022).Seventh evaluation report on the Netherlands. Council of Europe.
https://rm.coe.int/netherlandsecrml7-en/1680aa8930. Retrieved 15 January 2024.
Ministry of the Interior and Kingdom Relations of Netherlands. (2018). Administrative agreement on the Frisian language and culture.https://rm.coe.int/netherlandspr6-appendix-1-nl/168095007b . Retrieved 15 January 2024.
Friesland (2023). Wikipedia, the Free Encyclopædia. https://en.wikipedia.org/wiki/Friesland. Retrieved 15 January 2024.
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学校教育における多言語主義と読書習慣(邵 逸凡 東京大学 学部生)
交通やネットワーク技術の向上により世界が縮小するにつれ、二言語以上を話す人がますます増えている。多くの研究によれば、世界人口の約半数が多言語話者である(Margolis, 2023; Bruggink et al, 2022)。国際的なつながりが強化され続け、より多くの人口が移動し、全体として国際交流が盛んになるにつれ、将来より積極的に母国語以外を話す人が増えると予測するのは無理がないといえるだろう。
子どもがいつ、どのように言語を学ぶかは、第二言語の読解力に影響することが多い。第二言語の読解レベルが低いことが多いが、それは第二言語の語彙ネットワークの理解不足によるものである(Bruggink 2022)。実際、「小学校4年生から6年生までの児童55人」と「成人38人」を対象に、英語を話す多言語話者について行われた研究では、多言語話者の児童の成績は単言語話者よりも悪かったが、多言語話者の成人では、多言語能力によって「より多くの推論、テキストの部分間の接続、テキストの構造への言及」が可能になることを示唆するパターンが示され、他言語の知識は英語テキストの理解に独自のバリエーションを生み出すのに役立つことがわかった(Friesen et al, 2022)。
さまざまな言語で教育を受けることで、子どもは主要言語以外の語彙や体系を理解することができる。複数の言語で教育を受けることは、個人の文章理解に良い影響を与える/与える可能性があり、そのような教育は奨励されるべきであると結論づけられる。
参考資料
Bruggink, M., et al. Reading Comprehension and Multilingual Students. In: Putting PIRLS to Use in Classrooms Across the Globe, Springer, Cham, 2022.
https://doi.org/10.1007/978-3-030-95266-2_4. 27/12/2023
Freisen, Deanna C., et al. Reading comprehension and strategy use: Comparing bilingual children to their monolingual peers and to bilingual adults, Frontiers in Psychology. 2022. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9730700/ 27/12/2023.
Margolis, Eric. Why bilingual literature is needed in a place like Japan. Japan Times. 5/5/2023. https://www.japantimes.co.jp/life/2023/05/05/language/bilingual-literature-needed-place-like-japan/ 27/12/2023