緊急事態において科学と社会が共同する方法 -緩和と適応のための対策を生み出す科学-
人々や社会は、直面している緊急事態に対して、科学と科学者が状況の緩和と適応のために考え得る対策を提示することを期待しています。特に未知の事象の場合、科学の能力と知識の活用することは困難を解決する数少ない可能性の一つです。
2017年に国際連合が持続可能な開発目標(SDGs)について議論したとき、SDGsの科学技術イノベーションフォーラムの議長であった当時のケニアのマカリア・カマウ国連大使は、SDGsのような世界共通の問題に直面する時、科学は可能な選択肢を提供することが期待されていると述べました。その理由は、これまで政府が科学活動に比較的大きな資源を投資してきたからだと強調しました。この発言は、科学に対する社会の典型的な期待を示しています。
確かに、ほとんどの国が科学活動に莫大な資金を投資しています。たとえば、各政府は多くの科学者を研究者または教員として雇用し、研究機関や大学に研究室を設立し、そこに研究資金を提供しています。社会が支援している科学の領域は、自然科学から社会科学、人文科学まで及ぶ幅広いものです。自然科学でも数学、物理学、化学から生物科学まで及びます。
コロナの事態では、コロナウイルスに対処する活動の科学分野での主役は医療関係者です。医療分野、特に臨床分野の人々は、患者の治療とケア、感染の可能性がある人を見つけるための検査と調査に専念しています。医学の他の分野では、多くの研究者がコロナに対する医薬品やワクチンの候補を開発または発見に挑戦しています。ウイルス学などの医学の基本研究分野では、感染力や感染のメカニズムなど、コロナウイルスのさまざまな特性を解明するために多くの研究者が取り組んでいます。これはより良い対策を作成するための基本的な知識となります。周辺の分野の科学者や研究者のこうした活動は貴重であり、高く評価されています。
しかしながら、科学はコロナに対処するより広い可能性をまだ持っています。事態に対処するために自身の方法論を活用する、他の分野の科学者やエンジニアの非常に幅広い自発的な行動があります。いくつかの例は、コロナイベントの状況を分析するためのいくつかの物理学者の努力です。東京カレッジの佐野雅己教授が統計物理学の方法でコロナイベントを検討し、カレッジのブログで公開しています。また、九州大学名誉教授の小田垣隆先生は、佐野教授と他の物性物理学教授らと共同で、感染調査件数と人と人の間の接触規制の関係について研究を行っています。小田垣先生は、感染調査の増加とそれに基づく公衆からの患者の分離は、単に公衆間の接触機会の減少をはかるよりも感染の緩和により効果的であることを示唆しました。
別の例は、2012年のノーベル生理学・医学賞受賞者である京都大学の山中伸弥教授の提案です。山中先生は、大学の研究室のPCR能力を利用してPCRテストの機会を拡大することをオンライン討論会で首相に提案しました。コロナウイルスの専門家以外の科学者、エンジニア、技術者によるこれらの取り組みは、社会に高く評価されるものです。この場合、これらの取り組みは最初は、既存の資材を使って開始するか、既存の研究資金を振り向けることでから始まります。しかし、人々、特に政府は彼らの善意と自発的行動を利用することにとどまってはいけません。これらの作業は、既存の装置を使用し、光熱水料と消耗品を使って、研究のために時間と能力を犠牲にし、研究者と学生によって実施されます。彼らの本来の使命は研究と教育です。遅かれ早かれ、政府は必要な費用を賄うための予算をもって、彼らの努力に報いるために財政的措置をとるべきです。
さらに、科学は未来を切り開くことで社会の役に立ちます。コロナウイルスのメカニズム解明はこれからも続きます。この取り組みの重要な点は、事実とデータの収集です。このウイルスは消滅しないので、ウイルスの再流行状況に対する効果的な対策と準備を整えるには、できるだけ客観的な事実と科学的データが必要です。科学はデータを公平に収集し、一部の人々にとって不都合な真実を隠すことなく客観的な証拠のアーカイブを作成できます。 これらの取り組みは、将来の確固たる基盤となります。
社会と科学の関係を強化する次の段階は、事実とデータに基づいたより良い政策決定のための科学的助言です。
次の記事では、科学者が政策立案者に如何に科学的助言を提供するかについて説明します。