5つめの研究テーマ
東京カレッジは、昨年2月の創設以来、「2050年の地球と人類社会」という中長期的な研究目標の下に現代世界で重要な4つの分野横断的な研究テーマを掲げ、これらを軸にして様々な活動を展開しています。4つのテーマとは、「ディジタル革命と人類の未来」「学際的アプローチによる地球の限界への挑戦」「内から見た日本、外から見た日本」「2050年の人文学―世界哲学、世界史、世界文学」です。
一般の方々を対象に過去1年半の間に開催された講演会やシンポジウムを振り返ってみると、その大半がこれら4つのテーマに関わっていることが分かります。また、これまでの招聘研究者や今年になって着任した若手研究者たちも、これらのテーマのいずれかと密接に関係する分野の研究に携わっています。この夏からは、4つめのテーマである「人文学の未来」についてカレッジ内部での共同研究会が始まり、3つめのテーマと関わる「アイデンティティ」の研究会の準備が進んでいます。4つのテーマを核とする分野横断的な研究活動と社会への発信は比較的順調に滑り出したと言えるでしょう。
しかし、今年3月以後に生じたコロナ危機は、私たちが追究すべき重要な分野横断的研究のテーマがさらにもう一つあることを教えてくれました。それは2050年という未来に向けて、人々の生命とその価値をどのように規定し、それに見合う医療や経済の活動をどう展開するのか、また、規定された生命の価値を尊重するための政治や社会の仕組みと人々の具体的な生活はどうあるべきかといった「生命」に関わる一連の問題群です。これらの問題群は、現在私たちが置かれている状況を背景に、6月から7月にかけて開催した国際ラウンドテーブル、カレッジの研究者によるウェビナー、それに学内の研究者の協力によって実現した7回の連続シンポジウムでの討議を通じて浮かび上がってきたものです。
カレッジに所属する研究者たちによる熱心な意見交換を経て、また学内の教職員がメンバーの東京カレッジ運営委員会委員の方々から有益な助言を頂き、私たちは新しい5つめのテーマを「生・命(いのち)の未来」"Life and its Value for Future Society"と定めました。今後は、このテーマに関連する研究を国際的に展開している卓越した研究者や若手有力研究者の招聘、学内の研究者との密接な連携、講演会の企画などによって、カレッジの研究活動と社会連携の幅をさらに広げてゆきたいと考えています。
これまでこのテーマに正面から取り組むことのなかったカレッジ所属研究者たちが、分野横断的にこの未開拓の領域に入り込んでくることも当然期待されています。その第一弾として、6月に開催されたウェビナー型ワークショップ「コロナ危機を文化で考える―アイデンティティ・言語・歴史」の書籍化企画が進行しています。私も「にわか疫病史学者」として、一文を寄稿する予定です。これまでの自分自身のキャリアを振り返ると信じがたいような新しい経験ですが、これはこれで楽しく取り組めそうです。いずれにせよ、5つめの新しいテーマに関連した様々な活動によって、これまで以上に多くの方々が東京カレッジに注目し、激励や支援、提案や意見を寄せて下さることを願っています。