新任メンバー・インタビュー:ポストドクトラル・フェローTSAI Hung Yin - 東京カレッジ

新任メンバー・インタビュー:ポストドクトラル・フェローTSAI Hung Yin

2021.12.10
Tokyo College Blog

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このシリーズでは東京カレッジの新任メンバーを紹介します。今回は9月よりポストドクトラル・フェローに着任したTSAI Hung Yinさんにお話を伺いました。
 

東京カレッジへようこそ!ご自身のバックグラウンドと、研究テーマについて教えてください。

医学の分野における歴史的な出会いや現代における出会いについて研究しています。医学の文化的、政治的、経済的、社会的、認識論的側面を明らかにすることが目的です。私たちの身体の機能、病気の原因、規範的な人生観など、さまざまな事柄に対する考え方が、グローバルな交流によってどう変容したのかに関心があります。生物医学は過去数百年で人間のライフスタイルを劇的に変えましたが、世界の僻地に住む人々は今も伝統医学を用いており、意外ではありますが、伝統医学は、生物医学が主流の米国などでも支持を得ています。さまざまな医療行為に関する社会的考え方、そして医学的考え方は、(1)何が医学とみなされるのか、(2)何が医療効果の合理的エビデンスとみなされるのか、という2つの問題をめぐってしばしば激しい論争を引き起こします。こうした論争では多くの場合、「補完医学」(非標準的な医療)が話題になるだけでなく、生物医学の革新や、さまざまな医療の地域・世界レベルでの統合も議論されます。

東京カレッジに来る前ですが、2021年に、「医学における文化的出会い―植民地時代と近代における、および交流による台湾の伝統医学の(再)形成」と題する博士論文を書き上げました。この論文では、日本の植民地時代(1895~1945)に帝国主義と生物医学が台湾の伝統医学をどのように変容させたかを論じています。台湾は医学の制度的変化を経験し、植民地政府と現代医学の免許を有する医師らは現代医学を神聖視し、伝統医学は「原始的」で「医学にあらず」と中傷しました。それに対し、台湾の伝統医学の医師らはさまざまな戦略も用い、伝統医学を保持するか、現代医学と統合させようとしました。その結果、植民地時代に西洋医学が台湾に根を下ろし、同時に伝統医学は世界に広がりました。今日、世界中の人々が実にさまざまな代替医療を利用していて、代替医療のほとんどは先住民の文化とつながっています。代替医療は帝国主義のもとで生まれたのですが、そうした医療が「代替」とされたのは、帝国とその近代医療制度が「代替医療」という呼び方をしたからです。医学、政治、文化、その他であれ、伝統と近代が出会うと、奇妙なアイロニーが生まれます。植民地時代、伝統医学はローカルなものと考えられていましたが、実は、グローバルな交流によってグローバルなものに生まれ変わったのです。

現在の研究プロジェクトについて教えてください。

西洋医学と東洋医学の出会いに関するこれまでのプロジェクトにとどまらず、バイオプロスペクティングと人間の健康増進という文脈で健康と幸福の概念をさぐる新たな研究に取り組んでいます。私が特に注目するのは、昔からある薬草で作られる栄養補助食品です。バイオプロスペクティングというのは、科学者が商品に変えられる植物や微生物、動物などの自然資源を体系的に探査することです。探査された自然資源の一部は、日常生活を支える人気の栄養補助食品になります。たとえば、セイロンシナモンは血糖値を安定させ、アジア産のキノコ霊芝は免疫系を高め、南米産のマカは男性の活力や性力を高めます。

この分野の研究者は現在、バイオプロスペクティングについて激論を交わしています。バイオプロスペクティングは途上国の搾取と関係するからです。もっとも、私は別の観点からこのテーマを捉え、こうした栄養補助食品の利用者や、栄養補助食品を規制する政府の政策に焦点を当てます。私はこの研究プロジェクトの枠組みとして、次の3つの問いを立てています。(1)ある国でのバイオプロスペクティングに由来する栄養補助食品は、他の国では、健康や薬剤に対する人々の理解にどう影響するのか。(2)ある国の政府は、別の国の伝統医学に関係する、バイオプロスペクティング由来の栄養補助食品の効能表示をどう規制するのか。(3)政府は、バイオプロスペクティング由来の特定の物質は伝統医学であるのか、それとも医薬品外のサプリメントであるのかをどのようにして判断するのか。特に、国内に伝統医学がある国ではどう判断するのか。人間の健康増進というと、私たちは、遺伝子編集やブレイン・マシーン・インターフェースなど高度な技術を考えがちですが、実際のところ、人々がおそらく無分別ではあれ、健康増進のために試みる最も一般的な方法は栄養補助食品、つまり薬用効果のある食品の摂取です。したがって、こうした栄養補助食品の登場は、身体と人生そのものを管理したいという欲求の反映だと言えます。手に入れやすく、効果があると言われる栄養補助食品を用いることで、人生はどうあるべきかという私たちの考え方が変わるのです。

東京カレッジ在中に成したい目標は何ですか?

東京カレッジでのプロジェクトを通して、日本の生物医学や医療人文学の研究者と交流したいと考えています。日本は、グローバルなネットワークで知識を共有・交換する重要な拠点の1つになっていますから、医学の文化的出会いを研究するのに最適な場所です。日本の研究者が医学や医療についてどのようなことを、どのように考えているのかもっと知りたいと思っています。また、日本人研究者と、米国や東アジア諸国の研究者の橋渡しをして、特に科学技術社会論(STS)研究の分野で橋渡し役となり、国際的・学際的な共同研究を推進したいと考えています。

 

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