卒業者第1号
東京カレッジは、2019年2月1日に設立されました。この1月末でちょうど3年が経ったことになります。1枚目の写真は、設立のその日に卓越教授の十倉先生とともに撮影したものです。当時の東京カレッジはまだヴァーチャルな組織で、所属する教員は十倉先生と私だけで、職員は配置されていませんでした。
2枚目の写真は同じ年の4月1日のものです。副カレッジ長2名と専属職員が5名配置されましたが(この写真には設置の実務を担当した経営企画部の職員も写っています)、この時点では海外からの研究者の訪問や着任はまだありませんでした。それからの1年は、招聘する卓越研究者へのコンタクト、若手研究者採用のための仕組み作り、それに組織そのものの将来構想の具体化などに追われました。2019年の秋に初めてのポスドク研究者選考を行い、同じ頃に特任助教と特任研究員ポストの設置と公募を行いました。私の記憶に間違いがなければ、最初の若手研究者として、特任助教のMichael Faciusさん、ポスドク研究者のMichael Roellinghoffさん、それに特任研究員の寺田悠紀さんが赴任したのは、2020年1月のことでした。
2年と少し前のことです。それ以後、所属する若手研究者の数は急速に増え、2021年12月末には、計19人になりました(准教授1人、特任助教2人、ポスドク研究員11人、特任研究員5人)。出身国は、日本を含むユーラシアと北米の12か国です。いずれもそれぞれの研究領域ですぐれた業績を挙げ、同時に分野横断的な共同研究に強い意欲を持つ素晴らしい研究者です。20人以上の研究者と職員が集まる3枚目の写真(2021年4月に撮影。必ずしも当時のメンバー全てが写っているわけではありません)を見れば、この間のカレッジの成長がよく分かるでしょう。
東京カレッジのミッションの一つは、このような若い研究者たちが切磋琢磨しながら、また東京大学の研究者と連携しながら各自の研究を遂行し独創的な研究成果を挙げる場を提供することです。それまで互いを知らなかった若い研究者たちが一旦東京カレッジに集って親交を深め、大きく成長した後に日本を含む世界各地に散らばり、将来東京カレッジをハブとする国際的な研究ネットワークが形成されることも狙っています。
これまでは人がやってくるばかりでしたが、この度、若い研究者の中で初めて東京カレッジを「卒業」し別の研究機関に移る人が現れました。1月末まで特任助教だった赤藤詩織さんです。2月からオーストラリア・シドニー大学の人文社会科学部人類学専攻で専任講師を務めています。彼女は2020年5月、COVID-19のために緊急事態宣言が出ていた東京に、シンガポールからやってきました。東京カレッジに所属していたのは、わずか1年と数か月です。しかし、この間の彼女の活躍は、この文章をお読み下さっている皆様の多くはきっとよくご存知でしょう。
彼女はジェンダーや経済などの分野で重要で意義深いテーマの講演会やパネル・ディスカッションを数多く企画し、司会者や登壇者としてそこでしばしば中心的な役割を果たしました。専門の学術論文だけではなく、東京カレッジのウェブサイトに興味深いブログ記事を何本も発表しています。カレッジ内部の研究会での彼女の斬新な着想に基づく切れ味鋭い議論は、参加者に鮮烈な印象を与えるものでした。また、単に研究を遂行するだけではなく、ウェブサイトの「研究」頁の構築、メイルマガジンの編集など、東京カレッジの日常業務にも献身的に貢献してくれました。
赤藤さんが東京カレッジを去ったことはとても残念です。でも、私はこのことをむしろ前向きに、積極的に評価したいと思います。短期間とはいえ東京カレッジでの彼女の多彩な研究活動をオーストラリアの名門大学が認めたのです。それは東京カレッジ自体が評価されたのだとも言えるでしょう。また、彼女の卒業は、東京カレッジで育った研究者の国際的ネットワーク形成のための第一歩です。彼女は素晴らしい前例を作ってくれたのです。今後、多くの若い研究者たちが、彼女のように海外や日本の研究機関で職を得て、共同研究のネットワークを内外に広げていってくれることを期待したいと思います。
幸い、赤藤さんは、東京カレッジの連携研究者となることを承諾してくれました。さらに大きく成長した彼女とこれからも様々な側面で一緒に仕事ができるだろうと楽しみにしています。