新任メンバー・インタビュー:ポストドクトラル・フェロー Laur KIIK
このシリーズでは東京カレッジの新任メンバーを紹介します。今回は4月よりポストドクトラル・フェローに着任したLaur KIIKさんにお話を伺いました。
東京カレッジへようこそ!ご自身のバックグラウンドと、研究テーマについて教えてください。
2010年からこれまで12年間、カチン高原に暮らす人々や自然について学び、その内容を発表してきました。カチン高原は、大国である中国とインドがビルマ(ミャンマー)と接する場所です。ビルマは第2次世界大戦以後、平和な日をまだ手にしていません。
私は、100万人余りの人口を有するカチン族に関する民族学的フィールドワークをもとに研究しています。カチン民族主義に関する論文では、現地の天然資源をめぐる紛争、天然資源を争奪する第三者について書きました。また、「ミッソン水力発電ダムプロジェクト」をめぐる国際的論争についても複数の論考を発表しています。このプロジェクトには中国とカチンとビルマのナショナリズムが絡んでいます。
カチンの人々が暮らす地域は生物がたいへん豊かなため、生物多様性保護プロジェクトがいくつもこの地で行なわれてきました。そういう地域だからこそ、私は自然保護の人類学について研究し、論文を書くようになりました。
現在の研究プロジェクトについて教えてください。
世界的な環境危機、ナショナリズムの高まり、中国の台頭が私たちの世界を変容させていますが、それらは相互にどう関係しているのでしょうか。それが私の研究の大枠を成す問題意識です。
私の研究の目的は、異なる学問分野を統合した、地域に根差した民族学的アプローチが、そうした大きな問いかけに答えるうえでいかに役立つかを示すことにあります。
より具体的な研究テーマは、カチン族のナショナリズム、天然資源、民族紛争、野生生物になります。たとえば、カチン族の独立運動が、カチンの自然を利用したい中国事業(10億ドル規模の翡翠採掘、熱帯雨林伐採、単一栽培農園、大規模水力発電ダム開発)といかに複雑に絡み合ってきたか。また、欧米の生物多様性保護論者とカチン族のナショナリストが出会うとどのようなことが起きるのか。
こうした研究では、「ネイチャー・自然」をめぐる争いと「ネイション・民族・国」をめぐる争いが複雑に絡み合っていることがわかり、そうした争いは切り離して理解することはできません。しかも、もう一つ課題があります。一方を他方に還元せずに、そうした複雑な関係を叙述するにはどうすればよいか、ということです。
東京カレッジ滞在中に達成したい目標は何ですか?
研究活動、論文や本の執筆をしながら、東京はもちろん、幅広く日本人研究者、カチン族その他の外国人研究者とも共同研究をしたいと思っています。私の研究は、ことに学際的に行なわれてきた日本のアジア研究や他の地域研究と響き合うものがあります。人類学や生態学などに対する日本人研究者のこれまでのアプローチについて学べることを楽しみにしています。
そういうわけで、東京カレッジが「学際的な広場(アゴラ)」であること、つまり、あらゆる分野の研究者が集い、出会い、話せる開かれた場であることがとても気に入っています。ポストドクトラル・フェローとしてのこれから3年間、思いもよらない人との出会いがあり、予期せぬ比較研究や共同研究が生まれることでしょう。
最後に、東京カレッジは私たち大学人に、もっと公共に目を向けるよう求めています。この要請に応えるべく、複雑な問題の答えを探るだけでなく、研究分野を越え、わかりやすい言葉で語り、私の研究にオンラインで自由にアクセスできるようにします。
東京カレッジで新しい仲間と研究できるのが楽しみですし、東京カレッジ・スタッフの多大な配慮に感謝しています。