ネイチャーポジティブ・キャンパス - 東京カレッジ

ネイチャーポジティブ・キャンパス

2023.05.01
Tokyo College Blog

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執筆者

Swetha SOUNDARARAJAN (東京大学教養学部 理科二類 学部生)

第5回生物多様性科学・政策フォーラムと第8回サステイナビリティ科学国際会議のセッション「ネイチャーポジティブな未来に向けた機会―若手研究者のセッション」の共同開催に本学の学生が招待されました。このイベントは、カナダ・モントリオールで開催された国連生物多様性会議(COP15)の公式イベントとして、2022年12月11日~12日の2日間にわたって開催されました。本セッションでは、若手研究者と大学生・大学院生が、生物多様性の価値の再発見についてディスカッションを行いました。本セッションは、自然豊かな未来に向けた革新的な解決策を模索する次世代をインスパイアすることを目的としています。

東京大学では、公募で選ばれたSwetha SOUNDARARAJAN氏、山口 空氏、Leah HAN氏、井置 涼花氏が、アクティビティをデザインし、モントリオールのカンファレンスで直接発表する機会を得ました。このグループは、GLP-GefIL(東京大学-グローバルリーダー育成プログラム)の小松崎俊作教授が指導し、東京カレッジのMarcin Jarzebski氏が共同指導しました。

東京カレッジ:COP15への参加、ご苦労様でした。生物多様性保全の行動がなぜ重要なのでしょうか? COPというのはどのような会議ですか?

シュウェタ氏:驚くまでもなく、相当数の種が絶滅の危機に瀕していて、地球の生物多様性の崩壊を防ぐには直ちに人間の介入が必要です。事実、世界自然保護基金(WWF)の「生きている地球レポート2022」によると、地球全体の哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類、両生類の個体群が1970年以降、平均69%減少しています。生物多様性の保全に関するこうした議論はずいぶん前から続いています。歴史的な出来事としては、生物多様性について議論し交渉するために生物多様性条約(CBD)が1992年に成立したことがあげられます。CBDは生物多様性に関する初めてかつ最も包括的な政府間協定です。次の転機は第10回締約国会議(COP10)が2010年に名古屋で開催された時で、生物多様性の損失を2020年までに食い止めるために緊急かつ効果的な行動をとることが合意されました。この目標を達成するために必要な行動が「愛知目標」にまとめられましたが、残念ながらほとんど達成できませんでした。COPという略称で呼ばれている締約国会議は2年ごとに開催され、196の締約国が参加して生物多様性のガバナンスについて話し合います。

東京カレッジ:COP15について教えてください。

シュウェタ氏:COP15は、カナダのモントリオールで2022年12月7日から19日まで開催されました。2020年以後の目標を議論する場として、とりわけ重要なものでした。これまでの協議の成果として、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。この枠組は2050年までに達成すべき4つの包括的なゴールと、2030年までに達成すべき23のターゲットを定めています。2030年までのミッションに加え、自然と共生する世界を目指す2050年ビジョンがあるわけですが、重要なのは、生物多様性の損失を食い止め回復させるために緊急の行動をとることです。それは「ネイチャーポジティブ」な社会の実現を意味します。

東京カレッジ:なぜCOP15に参加することにしたのですか。

シュウェタ氏:COP15に参加するこのような機会があると知って最初に思ったのは、「生物多様性を保全するために、学生として何ができるのか」ということです。そして、ベストな進め方は自分たちの大学のキャンパスから始めることだと気づきました。キャンパスは自然にかんする学者、研究者、若手の専門家が集う広範なコミュニティであり、豊かな生物多様性は生きた研究室となり、新しい種の発見が期待されるからです。キャンパスは都市の緑地の構成要素としても重要です。たとえば、東京大学の5つのキャンパスはいずれも都心にあり、そこでの生物多様性の保全は、日本と全世界の生物多様性の目標を達成するために不可欠です。さらに、大学は市民科学の拠点ともなります。キャンパスの生物多様性の保全は学生にもプラスの影響を及ぼします。まず、学生が生物多様性の全学的なマネジメントに参画すれば、生物多様性の世界的な課題の解決に向けて経験を広げることができますし、大学の生物多様性保全策はボトムアップ・アプローチが強まります。学生とキャンパスとの関係も深まります。私たちは、キャンパスの生物多様性のマネジメントに学生が重要な役割を果たすべきだと考え、学生用ツールキットを作成することにしました。

東京カレッジ:それはどうしてですか。

シュウェタ氏:キャンパスの生物多様性について調べていたら、ソーシャルメディアで「ネイチャーポジティブな大学」(NPU)というサイト(https://www.naturepositiveuniversities.net)を見つけました。自然への悪影響を減らすために、世界中の大学に創設メンバーとしての参加を呼びかけていました。NPUはオックスフォード大学、国連環境計画(UNEP)「若者と教育」、「国連生態系回復の10年」が共同で運営しています。キャンパス、サプライチェーン、都市、地域社会で自然を最重要視する個人と大学の世界的なネットワークです。NPUは世界中の大学に「ネイチャーポジティブの誓い」(ネイチャーポジティブな旅を始めるという誓い)に署名するよう求めています。また、ネイチャーポジティブな大学に向けた活動の手引となる学生用活動ツールキットの作成にも取り組んでいます。私たちと同じ目的で活動していることに驚き、NPUが進めていた学生用ツールキットの作成に参画することにしました。

東京カレッジ:ツールキット作成のプロセスについて、もう少し教えてください。

シュウェタ氏:まず、NPUの学生大使として参加し、NPUの中核チーム、学生インターン、他の学生大使と学生用ツールキットの全般的な構成について話し合いました。同時に、YESS(Young Ecosystem Service Specialists)やCOND(Change Our Next Decade)など他の団体とも交流して、このテーマについて視野を広げました。さらに、ツールキットの構成を、総合的でかつ使いやすいものにするために、さまざまな国から参加者を得てワークショップを数回開催しました。続いて12月12日のCOP15のセッションで、その成果を発表しました。最後に2月の報告会で、今後の行動に向けて私たちの研究成果や提案を披露しました。

東京カレッジ:ツールキットはどのようものですか?

シュウェタ氏:ツールキットについて、私たちはNPUにpdf版とウェブサイト版の作成を提案しました。具体的にはpdf版ではネイチャーポジティブな旅の4段階を説明し、ウェブ版では学生の行動事例を紹介することです。ネイチャーポジティブな旅はキャンパスの基本的なデータを評価することから始まり、生物多様性の現状を具体的に把握し、最適な方策を考えます。次の段階では、そのデータを用いてSMART目標 [SMART=Specific(具体的), Measurable(測定可能), Achievable(達成可能), Relevant(関連がある), Time-based(期限のある)]を定めます。第3段階は、目標を達成するために行動し働きかけます。最後の第4段階では、自分たちの行動をNPUに報告します。この4段階と、学生が各段階でどのような貢献ができるかがpdf版で説明されます。ウェブ版は第3段階の「行動して働きかける」に焦点を当て、いくつかの大学での学生の活動事例を調べるプラットフォームになります。利用者は行動レベルを選べますし、保全体系、行動分野、全世界の生物多様性目標など、さまざまなカテゴリーで事例を選別することもできます。

東京カレッジ:キャンパスで生物多様性保全の行動に積極的にかかわるようになり、COP15に参加されましたが、それで終わりではないようですね。今後はどのような活動をしたいとお考えですか。

シュウェタ氏:モントリオールから帰ってきてから、東京大学キャンパスでの今後の行動方針を考え始めました。そして、今後の行動を生物多様性監査(biodiversity audit)の実施、生物相一斉調査「BioBlitz(バイオブリッツ)」の開催、報告書作成の3つとしました。特定の地域で観察できた生物種を報告して共有するプラットフォーム「iNaturalist」を使い始めました。2023年の夏までにキャンパスの生物多様性監査を行い、教員や学生団体、市民団体の協力を得てキャンパス土地被覆地図を作成したいと考えています。夏には、特定の地域で短時間にできるだけ多くの生物種を見つけて同定するイベント「バイオブリッツ」も行ないたいです。このイベントで「iNaturalist」を有効に活用しようと計画しています。その後、生物多様性監査と私たちの行動を報告書にまとめます。

東京カレッジ:COP15に参加され、東京大学にどのようなメッセージを伝えたいですか?

シュウェタ氏:COP15のセッションは、急務でありながらあまり注視されていない課題に向かって私たちが行動する大きなきっかけになりました。プロジェクトの開始はもとより、それを持続させねばという思いを強くしました。各国代表が「生物多様性枠組」案の修正に時間をかけ、現状を変えるという意志をはっきり示したことに感動しました。同じように強い意志や取り組みが東京大学で見られたらいいなと思います。ネイチャーポジティブな旅は「Race to Zero」キャンペーンとともに、東京大学のグリーントランスフォーメーション(GX)目標の実現に向けた柱の一つとして、大きな可能性をもっています。

参考

WWF (2022) Living Planet Report 2022 – Building a naturepositive society. Almond, R.E.A., Grooten, M., Juffe Bignoli, D. & Petersen, T. (Eds). WWF, Gland, Switzerland. (邦訳「生きている地球レポート2022―ネイチャー・ポジティブな社会を実現するために」)

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