東京カレッジの魅力—離任にあたって
東京カレッジで過ごした日々は、私がこれまでに経験した研究職のなかで間違いなく最も刺激的で生産的なものだったと言ってよいでしょう。私の専門分野は前近代の日本の文学と文化で、環境研究と大衆文化にも関心があります。これまで日本の文学、宗教、歴史、芸術史の研究者と交流がありましたが、英語を共通語として、まさに国際的で実に学際的な環境に身をおき、共通の関心をもつさまざまな国の研究者と交流できたのは今回が初めてです。東京カレッジでは、私の関心に最も近い分野だけを挙げても、水工学から文化人類学、建築など、多様な分野の世界各地の多彩な研究者と出会えました。東京大学未来ビジョン研究センターの著名な環境学者、武内和彦氏をはじめ、さまざまな分野の研究者から意見を得たりしました。また、東京大学の日本文学・文化専攻教員らの参加を得て読書会を主宰しました。
特に興味深かったのは、Trent Brown氏を中心とする「持続可能性と社会」共同研究プロジェクトです。私はその研究会で「動物、災害、環境」というテーマで報告し、日本の伝統的な農環境の一つである里山を取り上げたところ、さまざまな専門分野・国の研究者から刺激的なコメントがあり、比較研究、理論研究の視野を広げることができました。その後このテーマで、東京カレッジの公開イベントで講演しました。講演は同時通訳付きの動画に編集され、国内外で多くの人に視聴されています。その時のコメンテーターだった東京大学の環境学研究者、福永真弓さんは、私に新たな領域を示唆してくれました。この講演が東京カレッジのYouTubeで公開されると、総合地球環境学研究所(京都)など他の研究機関からも講演を依頼されるようになり、さまざまな環境学者や文化人類学者から感想や意見をもらいました。こうして研究の輪がどんどん広がったことで私の研究領域はずいぶん深まり、私が考えてきたことも広く伝わりました。
私は東京カレッジで貴重な経験をいくつもしましたが、いちばんよかったのは、最先端分野の研究に励む優秀なポストドクトラル・フェローたちの存在を知ったことです。その一人であるJesse Rafeiroとは環境哲学やヒト以外のものについて共同研究をしました。私たちは千葉県館山市の里山に一泊で出かける機会を得て、東京大学の岡部明子教授(環境学)の研究室を訪ねました。私は東京カレッジ在任中に心躍るフィールドワークを何度かしましたが、これもその一つです。優れた研究者と若いポスドクの協働にたいへん元気づけられました。最後に、私の研究プロジェクトやプレゼンテーションを助けてくださった職員、特に稲垣さんと丹羽さんに感謝申し上げたいと思います。研究意欲を刺激しサポートも手厚い、これほど素晴らしい研究環境に出合えることはめったにないでしょう。
ハルオ・シラネ(コロンビア大学教授、日本学士院客員)
東京カレッジ招聘教員(2022年11月1日~2023年4月30日)、客員教授(2023年5月)